日本NIE学会第20回大会が、福岡教育大(福岡県宗像市)で開かれた。「情報過多時代のNIE人材の育成」がテーマのシンポジウムでは、元釧路市立景雲中教諭で現在は弘前大の池田泰弘准教授も発表。実践人材の拡充を目指し、短時間のNIEから始めて経験を蓄積することや、教員研修で新聞を使った作問をすることなどを提唱した。教員の業務分担の一つとするという工夫も報告された。

NIE学会のシンポジウムで登壇した左から池田准教授、中教授、芳川コーディネーターの3氏

 教員や新聞関係者ら全国から約70人が参加した大会は、4年ぶりの対面形式で昨年12月2日に開催された。シンポジウムには池田准教授のほか、中国新聞社(広島市)のNIEコーディネーターを務める芳川真理氏と花園大学(京都市)の中善則教授が登壇。実践経験や人材育成のアイデアを語り合った。
 池田准教授は「NIEを担う人材育成に向けて~自分育てと他者育ての視点から」と題して報告。初めに東京一極集中や外国人労働者の増加など、教員当時に北海道新聞を使って行った授業を紹介した上で、実践者自らの「自分育て」に向けて《1》同僚にNIEに関する理解を広げる環境整備《2》授業に役立つ記事をいつ、どの単元で使い、何を教えたいのかを考える自分との対話《3》数分から始めるNIE実践の蓄積と継続《4》自己満足に陥らない助言者の必要性―を強調した。
 「自分育て」を経て行う「他者育て」では、新聞を使った作問を現職教員の研修などで行ってNIEへの関心・意欲を高めてもらうことや、教員養成課程の学生に対してはNIEの意義を理解させ、将来の実践者を育てることが重要だとの考えを述べた。
 芳川氏は、校長を務めた広島県呉市の小学校での事例を紹介。教員の業務分担「校務分掌」の中の一つにNIEを位置づけ、担当者の企画・立案によって全教員が日常的に新聞の活用や新聞作りについて学び、関わるようにした。退職後はコーディネーターとなり、同県内各地の小中高の教員らと一緒に、新聞の内容を読み解くワークシートの作成などに取り組む。
 中教授は、大阪府岸和田市内の中学校社会科教員だった当時の一押しのNIE活動として、5年で26回発行した地域新聞の作成を挙げた。生徒が校区の話題や課題を調査・取材して発行・配達したミニコミ紙で、地域住民からの反応が励みになったという。現在も教員、大学教授や新聞記者らの8人で「大阪シティズンシップ研究会」を結成し、子ども新聞づくりを支援している。
 NIEの人材育成では大学教授として校内研修で講師を務めたり、有志教員への支援に力を注ぐ。今後も「NIEに関心のある教員や学生、市民に声をかけ、誘う→応援する→広げる活動に尽力したいと考えている」。(福元久幸)

*高校生が取り組み報告*「女芸人」「トー横」テーマに

NIE生徒研究発表会で活動報告をする新渡戸文化高の生徒

 第20回大会ではオンライン参加も含め、4校の高校生による興味深い研究発表会も開かれた。このうち奈良市立一条高と東京の新渡戸文化高の生徒は学会会場まで足を運び、NIEの取り組みについて報告した。
 奈良市立一条高は「女芸人とフェミニズム」と題して、新聞記事などを通じた調査内容を発表。ゆりやんレトリィバァさんの「かわいいと思ってもらうより、面白いと思ってもらいたい」と話したインタビュー記事や「見かけ不細工で体張るのが女芸人?」という友近さんらのコメントを紹介しながら「性別関係なしに芸で勝負すべきである」という意見も取り上げた。
 さらに「自分らしさを追究している」として渡辺直美さんに言及。「彼女のような存在が、女芸人及び女性たちが置かれる状況を打破するための鍵になりうるかもしれない」と述べた。
 新渡戸文化高は、新宿区歌舞伎町にある「新宿東宝ビル」周辺の路地裏に集まり、犯罪に巻き込まれる場合もある若者たち「トー横キッズ」の自立をテーマに発表した。生徒たちはこの問題に関わるNPO法人と新聞記者を取材。《1》(たまり場となっている)その場所をなくさない《2》悩みを共有できる居場所にする《3》「好き」を見つけてあげたい《4》仕事を作ってあげたい―という4点を踏まえて「占いの館」設置を提案した。
 今後は実際の占い師に取材したり、支援するNPOとの連携を図りながら、占いの館のアイデアを磨いていくという。