親に大学進学を勧められています。「将来の可能性が広がるから大学へ行った方が良い」と言いますが、自分は特に大学で勉強したいことがありません。けれども、ほかに希望する進路もありません。どうしたらよいか困っています。

回答者 光本滋さん(北海道大学大学院教育学研究院教授)

  大学へ進学する理由を聞かれて「将来の可能性が広がると思うから」と答える人は少なくありません(実際にそうしたアンケート結果もあります)。このように回答する人の中には親や学校の先生の意見、インターネットなどの情報をうのみにしている人もいるかもしれません。
 医師や薬剤師など大学を卒業しなければ就くことのできない職業はあります。大手企業の総合職など、大卒でなければ就くことが難しい職種もあります。将来、これらの職に就く可能性を広げたければ、大学に進学した方が良いでしょう。
 でも、質問された方が悩んでいるのは、「将来」の希望を描くことができないことのようです。高校生の時点で志望する職業を決めるのは簡単なことではありません。悩むのは当然です。
 ところで「将来」とは自分が就く職業のことだけではありません。どこに住み、誰とともに生活し、どんなことを楽しみ、何をめざして生きるのか。これらを考えることも将来を考えることです。
 こうしたことを考えるには、自然や文化のさまざまな可能性を知ることが大切です。それらは人間が発見し、作り出してきたものでもあります。自分が住みたいと思う土地にはなぜ魅力があるのでしょうか。その魅力は何によってつくられ、誰の力で維持されてきたのでしょうか。5年後、10年後にも、その場所が魅力的であるために、あなたができることはあるでしょうか。
 大学は、自分が知りたいことを探究する場所です。そこでは、他人に教えてもらうのではなく、自分が納得するまで考え、結論を得ようとする姿勢が大切にされます。ぼんやりとしかイメージできなかった「将来の可能性」をはっきりさせるために、大学進学を考えてみてはどうでしょうか。

 質問は過去の相談事例や投稿を基に再構成しています。