NIE(教育に新聞を)活動に力を注いできた根室管内別海町が、独自事業「別海町新聞の日」を始めて7月で3年を迎えた。毎月最終月曜を中心に町内の全小中学生約1300人が、新聞を使い朝の読書時間や授業で学ぶ日だ。情報通信技術(ICT)を活用する新たな動きや、各校の事情に合わせて新聞の日を変更するなど独自の取り組みも進む。日本新聞協会認定のNIEアドバイザーを務める別海中央小の根本渉校長(57)は「この3年間で事業内容がブラッシュアップされ、しっかり定着した」と、進歩を実感している。

全小中学生 学びに活用

 同町では質の高い学力、豊かな心、たくましい生活力の向上を図る「生きる力アッププロジェクト」を2014年度から推進。その後、「学びの土台づくり」対策としてNIE活動と、お薦めの本を紹介して聴衆の支持を競い合うビブリオバトルを取り入れた。20年度からの新聞の日には、町内の全小中学生に北海道新聞朝刊と道新こども新聞「まなぶん」が配布され、NIE活動を後押ししてきた。

■テーマ決め収集

「別海町新聞の日」に配られた新聞に目を通す西春別小高学年クラスの児童たち

「別海町新聞の日」に配られた新聞に目を通す西春別小高学年クラスの児童たち

 本年度2回目の新聞の日を迎えた5月29日、町立西春別小でも斎藤講宜(こうき)教諭(29)が担任を務める5、6年生のクラスにも新聞が配られた。10分間の新聞タイムで、児童は各自が今春に決めた「コロナ関係」「スポーツ」「事故」など、自分のテーマの新聞記事を読み、集めている。
 小中学生にデジタル端末を1人1台配備する政府の「GIGAスクール構想」によって、西春別小の児童たちも選んだ記事の写真をタブレット端末で撮影し、斎藤教諭に送る。こうして現在は記事集めを続けているが、2学期以降は自分が記事を選んだ理由の発表や、他の児童が選んだ記事についても自分なりに調べ、発表する取り組みを取り入れていく予定だ。

自分が決めたテーマの記事をタブレット端末で撮影し斎藤教諭に送る橋本さん

自分が決めたテーマの記事をタブレット端末で撮影し斎藤教諭に送る橋本さん

 スポーツがテーマの橋本颯太郎さん(6年)は「自分も練習しているスピードスケートや卓球、プロ野球などの記事を集めている。新聞の中から読めそうな記事を選んで読むのが楽しい」。「根室・釧路管内(地域)」をテーマとした古賀楓(かえで)さん(6年)は観光や水産業、ヒグマ出没などの記事を集める。「テレビでは放送されず、新聞でしか知ることができないニュースもあるので、新聞を読むことは大事と考えている」。

■野付学にも導入

 町内尾岱沼地区では、12年間の幼・小・中一貫ふるさとキャリア教育「野付学」が続けられている。地域の自然や歴史、基幹産業の漁業などを学ぶ取り組みは、文部科学省と経済産業省が選ぶ19年度のキャリア教育推進連携表彰最優秀賞を受賞した。
 NIE活動は、この「野付学」のメニューにも盛り込まれ、同地区にある野付小、野付中でも活発な活動が行われている。昨年12月には、新聞記事を切り抜いてつくる小中合同の「まわしよみ新聞づくり」が野付中で行われ、地域の人たちを含めた30人ほどが参加して交流した。本年度の小中合同のまわしよみ新聞では、野付中3年生が講師となる試みを検討中だという。

児童が興味を持った記事を貼り付けたワークシートを展示している野付小の廊下

児童が興味を持った記事を貼り付けたワークシートを展示している野付小の廊下

 このほか、野付小は毎週月曜を「朝新聞の日」と定め、10分間の時間を取っている。児童が「まなぶん」を読み、好みの記事を切り抜いて専用のワークシートに貼り、廊下に掲示してきた。野付中でも毎月の「新聞の日」は、朝の読書時間で新聞を読む。朝刊全体を見通して興味の湧いた記事を選び、速読して要約するまでを10分間で済ませる取り組みだ。
 4月に行われた本年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の自己採点を行った野付中は「生徒の国語の平均正答率は全国、全道平均を上回った」と、読解力の向上に手応えを感じている。22年度全国学力テスト北海道版結果報告書によると、町内の小学生も国語の平均正答率が全道を2ポイント上回り、全国と同じ66%に達している。
 学力テストと同時に行われた学習状況質問紙調査結果で「新聞をほぼ毎日か週1~3回読んでいる」と回答した町内の児童は45・4%。13%台だった全国、全道の3倍以上だ。「読書が好き」という割合は47・2%で全国、全道より4ポイント以上高かった。

■地域住民も協力

 町教委の吉光寺勝己指導参事(52)は「当初は月曜日だった新聞の日を『中高生まなぶん』のページがある木曜に変更した中学校や、月曜より地方面が充実している火曜にした学校もある」と述べ、各校が実態に合わせて取り組んでいる点を評価。さらに「地域住民や保護者の協力も得ながら、新聞の日の充実を図っている学校も増えてきている」と、事業の充実ぶりを喜んでいる。(福元久幸)

◇野付学◇

 ホッカイシマエビやサケなどの海の幸に恵まれた別海町尾岱沼地区で、野付幼稚園から野付中までの12年間を通じ、地域の環境や産業などを学ぶ取り組み。野付漁協や野付半島ネイチャーセンター、住民団体などが連携・協働している。起源は1963年度に始まった野付中生によるチカの採卵実習。その後もアサリの移植実習や野付湾のアマモ観察会、野付半島での自然観察・清掃活動などのほか、町内の動植物や歴史などに関する学習を通じ、地域産業の担い手育成を図っている。2011年度に野付小の取り組みが野付学と名付けられ、18年度に「野付学でつなぐ郷土の夢~幼小中一貫ふるさとキャリア教育~」として体系化された。