北海道NIE推進協議会(菊池安吉会長)は、2023年度に優れた新聞活用を行った「実践表彰校」に小中高校から1校ずつ、札幌市立義務教育学校福移学園と十勝管内浦幌町立上浦幌中、札幌新陽高の3校を選んだ。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、創意工夫を凝らした各校の取り組みを実践代表者に紹介してもらった。3校は、日本新聞協会から提供を受けた新聞を授業などで活用した道内の実践指定校35校の中から選ばれた。全35校の活動内容は、同協議会発行の「教育に新聞を 2023年度実践報告書」に掲載されている。3校の代表は8月9日、北海道新聞社本社で開かれる第8回北海道セミナーで内容を報告する。(福元久幸)

■札幌・福移学園 福本勇太教諭*3紙読み比べ視野広げる

福本勇太教諭 児童生徒数約100人の福移学園は札幌市東区にある小規模特認校で、市内初の義務教育学校。実践指定校3年目を迎え、廊下の目立つ所に新聞コーナーを設けると1~6年の前期課程(小1~小6)の児童と7~9年の後期課程(中1~中3)の生徒が、新聞を手に取るようになった。
 23年度は、担任した6年生の学級で朝の15分間のNIEタイムを週に1度設けた。日直当番の児童が気になる記事を一つ選び、要約した内容を紹介し感想などを述べる。続いて他の児童が総合デジタル教材「どうしん まなbell(べる)」に載ったその日の新聞1面などをタブレット端末で読んだ。日直の発表内容は教室での紹介後、学校司書と連携して図書室にも掲示した。
 憲法記念日の3紙読み比べでは「書いていることや見出しが違う」と気付き「複数の方法で情報を集めることが大切」「いくつか読むことでいろいろな見方ができる」と学んだ。社会科「世界に歩み出した日本」の学習のまとめでは、まなbellの新聞作成機能を使ってデジタルの新聞作成にも取り組んだ。
 新聞を通して社会について知り、考える機会が増えたことで、子どもたちの視野は学校から社会全体へと広がり、社会に参画しようとする意識が高まってきた。社会科「札幌市民の願いを実現する政治」で、札幌市雪対策室の方をお招きし、持続可能な除排雪のために「市民もできることをしていく必要がある」という考えを発表した。
 6年生から他学年にも活動は広がり、4年生は国語科の「新聞を作ろう」で、じっくり新聞を読みながら特徴を捉えた。社会や理科、総合などと関連させた取り組みもあった。2~6年生は「どうしん小学生新聞グランプリ」に応募し、学校賞を受けることもできた。新聞係はタブレット端末でアンケートをしたり、インタビューしたりして月2回程度のデジタル新聞を発行。まなbellを家庭学習でも活用し、デジタル新聞を書く子も出てきた。
 後期課程でも朝の時間や部活動に行く前に新聞を読む生徒の姿が見られるようになった。新聞を活用した授業に際し、後期課程の社会科の先生に教わり実践に生かすことができた。
 今後も社会に目を向け、参画しようとすると同時に多様な方法で情報を集め、情報を取捨選択して活用できる子どもに育つよう尽力したい。

児童・生徒が手に取って読めるよう廊下の目立つ所に設けた新聞コーナー

児童・生徒が手に取って読めるよう廊下の目立つ所に設けた新聞コーナー


■十勝・上浦幌中 中村宏喜教諭*国語力養うニュース要約

中村宏喜教諭 上浦幌中学校は23年度、実践指定校として3年目を迎えた。国語科を中心とした取り組みを紹介する。
 1年生では「広告を作る」の授業を展開した。授業の1カ月前から、全校給食を行う食堂や多目的室に「食育」「健康」に関する新聞広告を掲示して関心を高めた後、各自が教科書の関連単元で例示されている「清涼飲料水」「銀行」などに関するキャッチコピーを考えて広告作りに挑戦した。
 2年生の授業「投稿原稿を書こう」では、批判的な見方で新聞投稿文を書いた。作品は文化祭で展示したほか、全国中学校総合文化祭にも北海道を代表して出品され高い評価を得た。
 全学年で行うのは新聞記事の発表だ。国語の授業の最初の3分間を使って1年生は6月、2年生は4月から1回に1人が1面の記事を紹介。先生からの質問に一つ答える形で取り組んだ。2学期からは発表した記事の内容に自らの感想を加え、他の生徒誰か1人が感想を述べることにした。3年生は朝の会の中で「今日のニュース」のコーナーを設け、要約されたニュースを発表するという形で始めた。
 新聞スクラップの取り組みでは、各自がテーマを設定して10以上の記事を選んで作成した。全十勝スクラップコンクールにも出品し、最優秀賞のほか各学年から入賞者も出た。
 学級新聞作りにも挑戦した。新聞のレイアウトや見出しの付け方、写真の効果的な活用などを学びながら、国語の授業で書いた文章を記事に書き換えて掲載。総合的な学習でのまとめ(1年生は地域探究学習、2年生は職場体験学習、3年生は修学旅行記とふるさと納税への提言など)も盛り込んでまとめた。
 生徒会執行部の4人は、編集・レイアウトを担当して学校新聞を作製し、十勝毎日新聞社が十勝管内の中学・高校を紹介するコーナーに掲載された。委員会活動でも「新刊図書紹介新聞」を作成。新刊図書の帯の内容などを生かし、壁新聞形式で紹介すると、図書の貸し出し部数も前年度より大幅に伸びた。
 今後もより多くの教科・教育活動で新聞活用を図りながら、豊かな言語活動の展開を図っていく。

本の帯の内容などを生かし学習委員会が作成した「新刊図書紹介新聞」

本の帯の内容などを生かし学習委員会が作成した「新刊図書紹介新聞」


■札幌新陽高 桜庭彩寧教諭*新聞で「今年の漢字」選ぶ

桜庭彩寧教諭 札幌新陽高校は札幌市南区にある私立学校。24年度で実践指定校7年目となり、充実したNIE活動を積み重ねている。1年次の「言語文化」の授業で2時間ずつの全3回、計6時間を使って「時事問題と漢字を結びつける」という実践を行った。
 多くの生徒がインターネットの情報に依存し、正確な情報を「選択する力」が求められている今、情報を読み取る力や判断する力を身につける必要がある。そこで日本漢字能力検定協会が主催する「今年の漢字」に応募し、1年間でどんな出来事があったのかをウェブニュースや新聞を用いて振り返った。その際に自身の思う「今年の漢字」を選び、応募した。
 新陽高は22年度から、入学時に「アカデミア」「クエスト」「パイオニア」の三つの学び方から一つを選ぶ新たな単位制を導入している。「パイオニア」の1年生37人を対象とする初回の授業は23年11月21日に実施。今年の漢字を自身で設定し、新聞やニュースサイトから1年を振り返って応募した。
 続いて今年の漢字「税」が発表された後の12月19日に2回目の授業を行い「今年の漢字記事紹介ポスター」の作成に着手。上位20位に入った「税」「暑」「楽」などの漢字に関連する記事を探してポスターを作った。ポスターはグループ内で互いに共有すると同時に、他者との協働を通した「学び合い」にもつながった。今年1月17日の3回目の授業でポスターが完成。生徒たちの発表・情報交換会も開かれた。
 今回の実践を通し、情報を得る手段として新聞を提示した。普段の授業で生徒たちは情報端末「Chromebook(クロームブック)」を用い、ネットからの情報収集やレポートの作成を行っているが、異なる学習スタイルを経験することができ、ネットに依存しない選択肢も広げられたと感じる。また、漢字をヒントにニュース記事を探すことで、生徒たちには新聞を読みながら内容を把握するだけでなく、関連させられるものがないかと考えを広げさせることができたと考えている。

時事問題と漢字を結びつけて「今年の漢字記事紹介ポスター」を制作した授業

時事問題と漢字を結びつけて「今年の漢字記事紹介ポスター」を制作した授業

 

 札幌新陽高からはこのほか「新聞記事を要約の文章として活用」「身近な科学の事象に関する」と題した2点の実践報告も寄せられている。