岸尾祐二さん

岸尾祐二さん

 さまざまなNIE活動の一つに「ファミリーフォーカス」がある。新聞記事について父母と子供らが話し合う取り組みだ。苫小牧市立樽前小6年の葛西龍之介さんは今秋の日曜午後、居間で母親の佳代さん(42)らと新聞を開き、幅広いテーマを話題にした。「家族で活字とニュースに触れながら、対話することが最も重要な意義」。日本NIE学会の岸尾祐二理事(69)は、こうした新聞との親しみ方を推奨している。

自宅の居間で新聞を囲む(左から)佳代さん、多喜司さん、龍之介さん

自宅の居間で新聞を囲む(左から)佳代さん、多喜司さん、龍之介さん

 この日の北海道新聞1面準トップには、猛暑による餌不足を指摘する「道内果樹 鳥害深刻」の記事が載った。佳代さんが「(参加している苫小牧市の)未来創造こども会議のテーマは、地球温暖化でしょ」と龍之介さんに水を向けると「オレンジやリンゴにも影響があると教わったばかりだったので、この記事に関心が湧いた」と龍之介さん。
 次男で4年生の多喜司さんは、スポーツ面に載ったパラ走り幅跳びの写真に注目。「(万歳してゴールインする)グリコのマークみたい」と対話に加わった。
 第2社会面には、少子化などで道内高校野球の連合チームが全国最多と伝える記事が掲載された。「中学では野球部に入りたい」という龍之介さんに佳代さんは「地元の中学なら9人は集まるんじゃない」と答えた。その後も大阪・道頓堀川に投げ込まれ、今はプロ野球阪神の「幸運の象徴」となっているカーネル像や日本ハムファイターズなどについての対話が弾んだ。
 ただ、いつも集まって新聞を囲むわけではない。夕方に居間で宿題をしている兄弟2人に佳代さんが新聞を読みながら話しかけ、記事を話題にする。所得税減税や道内の平均時給といった難しい話をすることもあった。「今朝、こんな記事があったねと車で移動中に子供に話しかけたりもします」。記事を通じて社会の動きに関心を持たせるよう心がけている。
 「NIEは学校内だけのものではない」と力説する岸尾さん。東京の聖心女子学院初等科で2020年まで教諭を務め、30年以上にわたってNIEに取り組んできた。その経験を踏まえてファミリーフォーカスの具体的な楽しみ方==を紹介する。地図を片手に訪ねてみたい都市や国の記事を探して読んだり、新製品の記事を元に批評カタログを作ったりするなどだ。
 「学びの未来研究所」の共同代表も務める岸尾さんは、五感を通した学びの重要性も強調。ファミリーフォーカスでも、新聞紙面を彩る美しい写真について話し合ったり、料理や音楽などの記事を話題にすることを勧めている。自分たちが暮らす地域の記事を読み、身近な観光地やイベント開催地などを家族で訪れることも良い。「体験を通じた貴重な学びになり、家庭内での話題がさらに豊富になる」と言う。(福元久幸)