記事データベースの活用について、実践発表と意見交換が行われたNIE北海道セミナー=10日

記事データベースの活用について、実践発表と意見交換が行われたNIE北海道セミナー=10日

 「主体的な学びと新聞記事データベースの活用」を考えるNIE第7回北海道セミナー(北海道NIE推進協議会主催)が10日、札幌市中央区の北海道新聞社で開かれた。新聞記事データベース(DB)は、これまで掲載された記事を検索できるもので、活用する学校が増えている。田中学園立命館慶祥小(札幌)、旭川市立明星中、浦河高の3校の代表が活用事例を発表し、意見交換した。3校の発表内容を紹介する。

■立命館慶祥小

*独自プログラム使い調べ学習

山形昇平教諭

山形昇平教諭

 立命館慶祥小の山形昇平教諭(52)は、北海道新聞社との包括連携協定に基づいて共同開発した「MNI(Master of News & Information)教育」について述べた。全教科での調べ学習の精度向上や、新しく正確で安全な情報を発信する姿勢を育む独自の情報教育プログラムだ。「インターネットや紙だけでなく、人との対話を通した情報収集など、社会参加する心の育成も図っている」
 1~4年生ではニュースに接する習慣作りを重視。道新が専用に提供しているワークシートの記事などを読み、問題やクイズに回答する。この際、学習用記事DB「まなbell(べる)」にキーワードを入れてワークシートに使われた記事を探し、端末で対象の記事を絞り込んでいく体験もして検索方法も学ぶ。
 4年生の社会科の授業で小学校向け動画教材「まなvi(ビー)」や、まなbell、副読本を使ってアイヌ民族に関するパンフレットを作成した実践例も紹介。沖縄の米軍基地問題を取り上げた5年生の学習事例も示し「社会的な課題に関しては新聞との親和性が高く、活用するケースが多い」と述べた。
 まなbellを使った授業について、継続的な取り組みを通じ、児童たちがニュースや社会課題に日常的に触れることができるようになったことなどを指摘。「今後も低学年からの全校的・計画的なMNI教育を推進していく」と話した。(福元久幸)

■旭川・明星中

*生活の延長として知識増やす

大島泉教諭

大島泉教諭

 旭川市立明星中の大島泉教諭(39)は、2年生社会科地理的分野での活用を中心に実践報告を行った。
 生徒が自分の端末で「まなbell」を使い、北海道各地の産業を扱った記事を、産業名や地名をキーワードにして検索。夕張の位置に「メロン」、登別には「温泉」というように画面上の北海道地図に次々張り付けていくと、全員が見られる大型モニターに農業、漁業、工業、観光業などの分布が分かる産業地図が完成した。生徒たちは、教科書には載っていないが、道内に多彩な産業があることに驚いていたという。
 また、大島教諭が千歳に半導体工場を建設する「ラピダス」の記事を「まなbell」で3本選び、立地の背景と理由、道民の期待の三つの視点を示し、生徒に読ませた。
 社会科以外では朝の読書時間に全学年が週1回、まなbellで好きな記事を検索して読む。例えば、中体連の時期に自分が所属する部活の競技名で検索すると、昨年の中体連の結果やその競技の有名選手の記事が出てきた。大島教諭は「自分の生活の延長として知識を増やしたり、意図しない新しい情報に出合っている」と記事DBの効用を話す。(小田島玲)

■浦河高

*精度高い情報 全体見る力育む

佐藤友洋教諭

佐藤友洋教諭

 浦河高では、社会的・職業的な自立の土台となるキャリア教育に重点を置いている。社会科担当で同校キャリアガイダンス部長の佐藤友洋教諭(45)は、生徒が断片的で偏った情報に接している現状から「情報を概観する力が必要だ」と強調。新聞記事DBを活用することでその力が身につくとした。
 「今の子はユーチューブやインスタグラムなどで、自分の好きなものしか見なくなっている」と佐藤教諭。こうした情報には偏った情報や信頼できない情報もある。これに対し「新聞は記者が足で回り、ソースが確かで情報の精度は高い」と教材としての新聞の優位性を指摘した。
 同校では「総合的な探究の時間」にとどまらず、朝学習や各教科、企業を研究する進路学習にも記事DBを積極活用している。例えば公民科の「公共」では、難民問題を記事DBで調べさせ「母国に帰れない人、助けようとしている人、立場の違う人が新聞には出てくるので全体像が見え、では自分は何ができるのかを考えるようになる」と報告した。
 今後の課題は、おのおのの教員任せにせず学校全体で取り組むこと。「人事異動もあるので、何のために行うのか目的や意義を若い教員に理解してもらい、継承していくことが大事」と話した。(長谷川賢)

*検索の技術「慣れ」必要

 新聞記事DBの活用は、NIEの中では比較的新しい取り組みで、今回のセミナーで、教育現場での広がりを知ることができた。
 3校の取り組みでは、記事DBで入手した米軍基地問題、ラピダス、難民問題などの記事を読むことで、生徒は教科書にない情報にも触れていた。新聞記事の教材としての長所は、新しい情報または身近な情報であること。旭川市立明星中の大島泉教諭は「教科書に載っていることが自分事になる」と使う利点を話す。
 また、浦河高の進路学習も記事DBの特長を生かした活用例だ。大学や企業の情報は各団体のホームページ(HP)にもあるが、新聞記事はHPとは質の異なる、記者が視点を定めた情報で、記事DBで簡単に検索できる。札幌市教委の佐藤雅哉指導主事は「将来の見通しや社会をどう考えるかにつながり、意義がある取り組み」と評価する。
 課題として挙がっていたのは、生徒がどういうキーワードを使えば適切な記事が得られるかなど、検索技術に慣れが必要なこと。また、記事の文章に慣れていないため読むのに時間がかかることなどだ。
 道教委の米谷広美主任指導主事は記事DBについて「短時間で過去から現在までのたくさんの情報を得られる良さがある」と話す。今後は教科、行事、諸活動など、さまざまな局面で活用が広がる可能性がある。(小田島玲)