自分は何がやりたいのか、わかりません。小学校のころから将来の夢を聞かれても、答えられませんでした。人の役に立ちたいという漠然とした気持ちはあるのですが、先生は具体的な目標がないとダメだといいます。どうしたら、やりたいことを見つけられるでしょうか。

回答者 松本伊智朗さん
(北大大学院教育学研究院付属子ども発達臨床研究センター長)

  結論からいうと、「やりたいこと」を探す必要はありません。それは探すものではなく、いずれ出会うものだからです。人の役に立ちたいという漠然とした気持ち、とてもすてきな夢です。夢というのは、もともと漠然としたものです。具体的な目標というのは、「職業」のことでしょうか。わからなくて当たり前、「職業」は世の中に無数にあって、学校の先生だって実はよく知りません。まして中学生が知っている職業は、ほんのわずかです。
 もちろん、やりたい仕事や目標があって、その実現に向けて頑張るというのはすてきなことです。でも、夢がないとダメだといわれたので持つ「夢」に、価値はあるでしょうか。無理やり「目標」をつくっても、居心地の悪さが残りますよ。周りの大人を安心させる効果は、あるかもしれませんが。
 大事なこと、人の役に立つ仕事は、世の中にたくさんあります。その中の一つにでも関われたら、幸せなことです。そのために、「大事なこと」に出会ったときに、「ああ、これは大事なことだ」と気づく感性を大切にしましょう。人の役に立ちたいという気持ちを持つのは、人の痛みや悲しみ、社会の不合理さに関心があるからだと思います。その関心を持ちながら日々を過ごしていれば、感性は失われません。本はたくさん読んだほうがいいです。
 いつ「大事なこと」に出会うのかは、わかりません。でも必ず、そして何回か出会います。ふと気づく、という感じかもしれません。自分にできそうだったら、やってみましょう。やっているうちに、それが「やりたいこと」になっています。世の中の大人もだいたいこんなもので、子どもの頃の目標をコツコツと達成して大人になった人は、実は少数派です。自分がいつ何に気づくのか、楽しみにしながら日々を過ごすのも、悪くないと思います。

 まつもと・いちろう 専門は教育福祉論。1959年大阪府出身。

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