大学で教職科目を履修しています。履修しなければならない科目が多くて大変です。また、学校の先生は大変なので、大学生のうちにいろんな力をきちんと身につけてから、教師になる必要があると思います。ただ、たくさん学ぶことがあるので正直、疲れたり憂鬱(ゆううつ)になってしまうこともあります。

回答者 上山浩次郎さん(北海道大学大学院教育学研究院准教授)

  大学生の皆さんにとって、教職科目をきちんと履修することは大変ですよね。教員養成の大学に通う学生さんなら、授業や実習が目いっぱい入っているかもしれません。また、教員養成系の大学ではない学生さんなら、自身の学部・学科の専門科目の履修との「両立」がありますよね。
 「大学できちんと力をつけてから」と思うのは一理あると思います。研究者の多くは、近年の教育改革の柱の一つが、教師の実践的指導力などの教師の資質向上にあるとみています。
 法律によって教師の資質の向上に関する指標の策定義務があることから、それを指標化する取り組みを行う自治体があるようです。大学生のうちから資質・能力の向上に励むのは大事なことでしょう。
 ただ、研究者の一部は別の側面からも評価しています。例えば「こうした動向は、本来多様であるべき教師の成長を一面的にとらえすぎてしまうのではないか」。また「資質・能力の指標化は教師の豊かな指導技術の経験をノウハウ化しすぎてしまうのではないか」などです。
 さらに、そもそも指標とは、ある種「成功」のモデル化を意味しますが、行き過ぎてしまうと、同時に「劣った」「足りない」ものを作り出してしまう側面もあります。もしかしたらこうした側面が、あなたを疲れ、憂鬱にさせてしまっているかもしれません。こうしてみると、資質・能力の向上という動向を、俯瞰(ふかん)して相対的に捉える必要もあるでしょう。
 このように物事をいくつかの角度から複眼的・多面的に理解することは、大学で行える、もしくは行うべき事項であると思います。残り少ない大学生活と思いますが、改めて意識してみてほしいなと思います。また、大学院でさらに勉学に励むといった可能性もあるかもしれませんね。