Q 毎日戦争のニュースで悲しく、また怒りを感じます。学問は戦争をなくすことに役にたつのでしょうか。
回答者 松本伊智朗さん
(北海道大学大学院教育学研究院付属子ども発達臨床研究センター長)
A 率直な質問、ありがとうございます。本当に、毎日やるせないですね。回答者は「学問」を仕事にしているわけですが、答えるのがとても難しい質問、しかしとても大事な質問だと感じています。
残念ながら、学問は戦争を直接とめることはできません。考えてみれば、いつも地球上のどこかで戦争が起こっています。毎日のニュースに接して、いつもは忘れているこの事実を突きつけられる思いです。無力感がつのります。
ところで、戦時下ではしばしば事実が隠されます。あるいは事実がゆがめられたり、戦争に都合の良いように解釈されることもあります。間違いを認めないこと、異論や反対意見が封じられることもよく起こります。そして、ひとりひとりのしあわせが軽んじられ、いのちが失われることもいとわなくなります。
一方、学問という営みの基本は、事実を尊重し隠さないこと、多様な解釈の可能性を検討すること、間違いが見つかったら修正すること、異論を封じないで自由な言論を大切にすることです。そして学問の成果は、最終的にはひとりひとりのしあわせのために使われるべきことも、大切な基本です。
このように考えると、戦争と学問は本来対極にあるものです。戦時下で学問への弾圧がよく起こるのは、自由な学問が戦争の邪魔になるからでしょう。ここでいう学問は、学者だけのものではなく、先に述べた「学問の基本」を皆が身に付けていることまで広げて考えることが大切です。学校での勉強は、そのためにあるはずだと思います。
学問は戦争を直接とめることはできません。しかし、戦争をなくすためには自由な学問が必要だとも思うのです。この答えが正しいかどうか、回答者も考え続ける日々です。あなたが考える参考になれば幸いです。
質問は過去の相談事例や投稿を基に再構成しています。