数人のメンバーが各自気になった記事を切り抜き、模造紙に貼って作る「まわしよみ新聞」。NIEの授業や学校図書館関係者の集まりで実践が広がる。さらに一般向けの催しで、参加者が交流する様子も見かけるようになってきた。

 まわしよみ新聞は大阪のまちづくりプロデューサー陸奥賢(さとし)さん(47)が、2012年に始めた「新聞あそび」の一種。記事だけでなく広告を対象に含めたり、テーマを決めて行うこともできる。記事を読み参加者同士で話し合うことは、社会の理解につながり、NIE授業に取り入れられた。

 高文連の図書局員の集まりでは数年前から取り組みが目立つ。旭川市で開かれた今秋の全道大会をはじめ、本年度も各地で行われた。9月に釧路市で開かれた釧根支部の研究大会には9校の図書局員53人が集まった。

 3人で一つのグループに分かれた生徒たちは、その日の北海道新聞から記事を選んだ。根室市の小学校で行われるインクルーシブ教育の記事を選んだ釧路湖陵高3年の多田結さんは「多様性や個性に敏感になっている今、時間割を子どもたちに委ねるのはこれまでにないと感じた」と話す。

*コメントに共感

高文連釧根支部の催しで、選んだ記事について班内で説明、交流する生徒たち

高文連釧根支部の催しで、選んだ記事について班内で説明、交流する生徒たち

 机上にはジャンルも内容も異なる記事が集まる。選んだ記事について発表し合い、共感する生徒も。模造紙に貼りコメントを書き込んで班ごとに発表した。

 阿寒高2年の志賀雪音さんは「身近な問題なので気になった」と、スマホ使用時間制限の条例を定めた自治体の記事を選んだ。釧路江南高3年の渡辺拓人さんは「自分にはさほどでもない記事を選ぶ人もいて、視点の違いが面白かった」。

 当番校として担当した釧路明輝高の稲津由紀子教諭は、高文連の全道大会やNIEの研修でまわしよみ新聞を知り「図書局員は活字に親しんでいる。初めて会う他校生と交流するのに好適」と感じたという。

出来上がった新聞を他の班に紹介する上西春別中の生徒たち

出来上がった新聞を他の班に紹介する上西春別中の生徒たち

 月に1回「新聞の日」を設け、教育に新聞を活用する根室管内別海町。上西春別中では、4年ほど前から全校でまわしよみ新聞に取り組んでいる。10月中旬、総合の時間に訪れると1~3年生が入り交じった8班で、生徒たちがにぎやかに新聞づくりを進めていた。

 1年の佐藤蘭さんは「皆と交流することで、新聞をちゃんと読むことができて楽しい」と笑顔。大リーグで大谷翔平選手が大活躍した記事を選んだ。

 NIE担当の猫宮和也教諭は「他者の目線を意識しながら自分の考えをまとめて発表するのは良い経験になる。上級生はリーダーシップを養う場にもなれば」と期待する。

*他の世代と交流

 今夏、一般対象のまわしよみ新聞の集いを開いた札幌の学生団体「カササギ」代表の福原さくらさん(札幌開成中等教育学校5年)は「新聞には幅広い世代で共有できる話題が多い。他の世代の考え方や価値観にも触れられて、新鮮な経験になった」と振り返る。

 まち歩きガイド団体代表で新聞販売店経営の伴野卓磨さん(48)は今年7月まで半年余り、札幌市豊平区のカフェでまわしよみ新聞の催しを企画。現在の新聞のほか、図書館でコピーした50年前、100年前の新聞も用意した。「昔の新聞があると当時の背景が分かり、物事の流れが見える。多様な価値観に出合える場をつくりたい」と明かす。

 考案者の陸奥さんは「まわしよみ新聞には、人と人を結びつける面白さがある」と改めてその魅力を語っている。(五十嵐文弥)