日本NIE学会第22回愛知大会が9月27日、名古屋市名東区の愛知東邦大で開かれた。大会テーマは「確かなニュースをどう届けるか、どう発信するか~多文化共生社会のNIE~」。在住外国人数が多く、日本語教育が必要な児童生徒数が全国最多の愛知県で、外国にルーツを持つ子供向けに行ったNIE活動の発表や、確かな情報をどう届けるか考えるシンポジウムが開かれた。

*新聞切り抜き作品づくり*記事に感想 見出し付けも

外国ルーツの子供たち向けの新聞切り抜き作品づくりについて発表する中日新聞NIE事務局の岩下理花さん

外国ルーツの子供たち向けの新聞切り抜き作品づくりについて発表する中日新聞NIE事務局の岩下理花さん

会場に展示された新聞切り抜き作品

会場に展示された新聞切り抜き作品

 中日新聞NIE事務局の岩下理花さんは、外国にルーツのある子供向けに、県内3市で行う新聞切り抜き作品づくりについて発表した。「花」「宇宙」などのテーマに沿って集めた記事を模造紙に貼って感想を書き、見出しを付けて仕上げる。記事の選定や切り抜きは大人が担当する。

 安城市の小学校では2018年から、外国ルーツの子供たちを対象に教員が行う切り抜き作品づくりの授業を支援している。

 日本語を話せても、読み書きが上手でない子供たちはコメントを記すのも大変。それでも地元グルメに関する新聞は、コンクールで優秀賞に入り「安城市のことをたくさん知れて良かった」と話したという。岩下さんは「大人の支援を得て書き言葉を読むことは、学習言語を学ぶことにつながる」と手応えを語る。

 知立(ちりゅう)市では同事務局が21年5月から、日本と外国ルーツの子向けに「新聞寺子屋」を企画。外国ルーツの子が多い小学校そばの学童保育の場で今年9月までに36回開き、延べ250人が参加した。

 大学生や小中学校教員、NIEコーディネーターの支援で切り抜き新聞を作っている。新聞には豊富な写真もあり、支援者が漢字の読みや意味を説明。子供たちは自分のレベルに合わせて楽しむことができる。

 ここでは「遊びは学び」がキーワード。切り抜き新聞だけでなく、支援の学生や教員が考えたプログラムを行うこともある。岩下さんは「勉強より交流という意識でやっている。もっとハードルを下げてNIEの新しいアプローチを模索したい」と話す。

 この発表に先立つ分科会では、新聞寺子屋で愛知教育大の教職大学院生が7月に行った「ニュースキャスターごっこ」の実践発表もあった。

 日本語の読み書きレベルがさまざまな児童たちは、中日新聞が発行する「中日こどもウイークリー」から伝えたい記事を選択。ワークシートを用いて要点をまとめ、カメラの前でキャスターのように話した。

 児童が選んだ記事は絶滅した鳥の話から、能登半島地震の仕組みまでさまざま。修士2年の岡田陸さんは「多様なルーツを持つ子が『どうすれば伝わるか』を考える姿が印象的だった。遊びながら楽しく学べたと思う」と振り返っていた。(五十嵐文弥)


*楽しみながら情報検証を*プログラム開発の今井さん

今井善太郎さん シンポジウムには、メディアリテラシーの大切さを学ぶプログラム「レイのブログ」を開発した今井善太郎さんも登壇した=写真=。スマホやタブレットを使い、アニメや謎解きゲームを楽しみながら「児童生徒に情報の検証や批判的思考を学んでもらえる」と普及に期待を寄せた。

 慶応大4年の今井さんは学生仲間と「Classroom Adventure(クラスルーム・アドベンチャー)」を起業し、代表を務める。「高校でメディアリテラシーの授業が一番面白くなかった」と笑いを誘った上で「ゲームならどんな国籍の子も楽しんで学べる」と力を込めた。プログラムは「疑う」「調べる」「判断する」の3段階で物語が進んでいく。

 さらに闇バイトの危険性を学ぶ「レイの失踪」を制作したことも紹介。「真面目なテーマでセンシティブな(機微に触れる)部分もあると思うが、諦めずに伝えていきたい」と話した。

 このほか、スマートニュースメディア研究所の長沢江美研究員は「プロがお金をかけて発信するマスメディアと、誰でも発信できるソーシャルメディアを子供たちは同様に見ている」と問題視し、違いを伝える重要性を訴えた。また、アルゴリズムの仕組みで似たような意見ばかり集まるフィルターバブルを破るためには「アルゴリズムで作られていない新聞や本に触れることが大事」と指摘した。

 言葉の重みについて語ったのは、NPO法人ホロコースト教育資料センターの石岡史子代表と中日新聞社の臼田信行相談役だ。

 ナチスによるユダヤ人大量虐殺に関し、石岡代表は「(ユダヤ教の)信仰心があつい人、キリスト教への改宗者などさまざまだったが、ナチズムは世代をさかのぼって信仰を調べ、ひとくくりにユダヤ人とした」と批判。「言葉への感度を高めるには歴史を学ぶことが重要」と訴えた。

 臼田相談役は記者として取材した内容について「複数の取材源に当たって、その言葉の裏を取ることを毎日のようにやった」と自らの経験を紹介した。

 続いて参加者は4、5人のグループに分かれ、確かな情報発信などについて話し合った。(福元久幸)


*同じ日の新聞 記事違うのはなぜ*道新、河北新報 宮城の児童読み比べ

北海道新聞と河北新報を読み比べ違いを発表する児童

北海道新聞と河北新報を読み比べ違いを発表する児童

 宮城県松島町の松島第五小で10日、国語科「新聞の読み比べ」の授業が行われた。5年生の児童が9月28日の北海道新聞と河北新報を手に、次々と違いを発見し違う理由を考えた。

 北海道新聞のトップニュースは「人慣れクマ 札幌にも」。札幌市内で男性がクマに襲撃された事件を受けて読者に警鐘を鳴らしていた。河北新報は「気仙沼港生鮮カツオ水揚げ 29年連続日本一ピンチ」という内容だった。児童たちは見出しと写真からすぐ「北海道の話題はクマだけど宮城はカツオだ」と気付いた。

 及川仁美教諭は「同じ日の新聞なのに内容が違うのはどうして」と質問。児童からは「それぞれの地域の出来事を載せている」「住んでいる地域が違うから、読者がほしい情報も違う」などの意見が出た。

 一方、両紙ともに4こま漫画の内容や題字と天気予報、コラムの位置など紙面構成が同じことを見つけた児童もいた。角田創介さんは「他の地域の新聞を見たことがなかった。しっかり読んでそれぞれ違うことが分かった」と話した。

 この日の授業に先立ち、児童たちは及川教諭がスクラップしたサッカーJ2の北海道コンサドーレ札幌対ベガルタ仙台の試合結果を報じた北海道新聞と河北新報の記事を読んだ。札幌が仙台に0-3で敗れた試合だ。両紙ともに勝っても負けても地元チームを大きく扱い、地域に根差した紙面作りをしていることも学んだ。

 及川教諭は「比較すると面白い。実物の新聞を読むことで、知らない間に教科書にはない語彙(ごい)や知識が広がる」と話した。(河北新報 越中谷郁子)