旭川志峯高校の井上陽介教頭(44)は5年ほど前から「新聞ノート」作りで小論文指導を続けている。生徒が学校などにある北海道新聞の記事を選んで貼り付け、書き込んだ意見を添削する。「小論文には主張を裏付ける根拠や理由となる客観的な社会的事実が必須。新聞を通じて知識不足を補い、説得力を高める」ためだ。今年も指導を受けた3年生3人が総合型選抜で志望校合格を果たした。

井上教頭(左)が新聞ノートを使い一人ずつ行ってきた小論文指導

井上教頭(左)が新聞ノートを使い一人ずつ行ってきた小論文指導

 「記事に付いたグラフの数字から何が見えるかを記述して」「主語と述語の関係がおかしくないか」-。進路指導部長を兼務する井上教頭が指摘した。放課後の進路指導室で6~10月に週2回ほど行われてきた添削。ノート左ページに進路とする分野や、興味ある分野の記事を貼る。右ページには理解できない用語などを調べて記載し、記事に対する自身の意見を書き込む。
 井上教頭が新聞ノート作りを始めたのは、大学入試で小論文を課す総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)が増え続けているからだ。ベネッセコーポレーションがまとめた「学校推薦型・総合型選抜の入試概況」によると、2003年度の大学入学者のうち学校推薦型・総合型選抜による入学者は4割以下だった。それが22年度に初めて一般入試の割合を上回り、23年度には51・4%と過半数を占めた。
 小論文の試験は、長文を200字ほどに要約させたり、自分の考えを800字で記述させたりする。新聞ノートは、関心のあるテーマの記事を中心に読んで長文に対するアレルギーを解消し、文章や題意を読めないという課題の克服を目指す手段だ。漢字の間違いや話し言葉のような拙い表現は、繰り返し添削して改善。同校では例年3~5人が指導を受ける。
 「発達障害児の教育や家庭支援に関わる仕事がしたい」という武藤伶奈(れな)さんは旭川市立大保健福祉学部に合格。「ノート作りで福祉に関する理解を深めながら幅広く社会について知ることができ、受験の出願用リポート作成や小論文などで役立った」
 「地域経済を学ぶつもり」という黒沼煌(こう)さんも同大経済学部に進む。面接で「現在、興味のあるニュースは」という質問があった。「新聞ノート作りを地道に行っていたことで自信をもって回答することができた」という。
 情報システム工学に関心のある佐々木吾紋(あもん)さんは洋上風力発電や生成AIなど、科学関連の記事に興味を持ち、公立千歳科学技術大理工学部への進学を決めた。「知見を深めることで大学合格はもちろん、今後の学びへの意欲につなげられた」と喜ぶ。
 井上教頭は「これまで指導した生徒は、ほぼ全員が学校推薦型・総合型選抜で合格した。来年もより良い小論文指導を目指したい」と話し、新聞ノート作りに磨きをかけていく考えだ。(福元久幸)