「探究と対話を深めるNIE」をスローガンに京都市で開かれた第29回NIE全国大会京都大会(日本新聞協会主催)。8月2日の大会2日目は15の分科会が開かれた。多様な公開授業や実践発表の中から、ジェンダー関連記事の複数紙読み比べ、デジタル新聞の有効活用、子ども記者活動の三つを紹介する。

 「多様性を問う~新聞記事のジェンダー表現」と題した公開授業は、京都先端科学大学付属中学校高等学校(京都市)が、高3の論理国語で実践している新聞の読み比べだ。国語科教員で司書教諭の伊吹侑希子(いぶきゆきこ)教諭(41)が高3、高1、中3の計26人の学年を超えた特別編成での授業を行った。
 最初に問題提起として、世界各国の男女平等度を示すジェンダーギャップ指数で日本の順位が146カ国中125位(2023年)と低い現状を踏まえ、新聞報道から何が分かるか問いかけた。
 生徒は5グループに分かれて気づきや学びを発表した。題材は国際女性デーの3月8日付全国紙5紙と地方紙70紙の計75紙。横浜市にあるニュースパーク(日本新聞博物館)から提供を受けた。
 発表によると、75紙のうち1面で報じたのは44紙。2022~24年の朝日新聞を見比べたところ、年々扱いが大きくなり今年は朝刊1面全てが関連記事で埋まっていた。
 加えて米国や中国など海外15カ国22紙も購入し読み比べた。生徒たちは海外研修の体験を基に、男女格差や多様性について日本との違いに目を向けた。
 伊吹教諭は「経年比較で社会の変化が読み取れる。国や地域による違いも見えてくる。想像力を働かせてメディアの情報と接してほしい」と強調した。司会を務めた同中3年の江部花音(えべかのん)さん(15)は「海外の新聞を含め、全てに興味を持った。男女格差は政治や経済だけでなく文化的な要因も大きいことが分かった。もっと調べてみたくなった」と感想を語った。
 授業後の意見交換で、ニュースパーク前館長の尾高泉(おだかいずみ)さん(60)は「複数紙の読み比べはメディア・リテラシー教育につながる。批判的に読み解くクリティカル・シンキング、吟味思考が大事」と指摘した。(長谷川賢)

国際女性デーに関する海外の新聞報道について説明する生徒(右端)

国際女性デーに関する海外の新聞報道について説明する生徒(右端)

 

*デジタル新聞 効力知る*記事選び 制作体験

 京都教育大付属桃山小学校の井上美鈴教諭(40)は、昨年の6年生で週1回行ったデジタル新聞スクラップとデジタル新聞作成の実践について発表した。同校独自の教科「メディア・コミュニケーション科」の授業を通じて、児童が時間や場所を問わずにタブレット端末で新聞を読む習慣を身につけたと報告。デジタル情報の利点と欠点を教えていることも説明した。
 児童は過去1週間分の全国紙のデジタル新聞から気になる記事を選び、スクリーンショット(画面収録)で記録。その記事を選んだ理由や感想を書き込み、小グループで意見交流する。記事を選ぶ観点の違いなどを知ることができるという。
 授業ではデジタル新聞の利点と欠点も検証。井上教諭は利点について「スクラップの際に切り貼りの手間が不要で、数日前の記事も検索できる。全国の地域面を読める」と話した。児童からは利点として「記事を共有しやすい」「かさばらない」などが、欠点は「データが消える恐れがある」「物として残らない」などが挙がっていたという。
 デジタル新聞作りでは、中国、韓国、米国、サウジアラビアの4カ国について班ごとに調べた後、児童おのおのがさらに詳しく調べた内容を加え、全国紙の新聞作成アプリを使って、1人1枚の新聞にまとめた。アプリで写真も配置でき、書き直しも簡単で、1時間ほどで仕上がったことを報告した。
 井上教諭は「生成AIとSNSを使って今は誰でも発信者になれるが、それで良いのかと子どもたちに問いかけている」として、肖像権やプライバシーへの配慮など、情報に責任を持つことの大切さを指導していると強調した。(福元久幸)

デジタル新聞を活用した実践発表を行う京都教育大付属桃山小の井上美鈴教諭(右)

デジタル新聞を活用した実践発表を行う京都教育大付属桃山小の井上美鈴教諭(右)

 

*子ども新聞記者 見極める力育つ*小中高生が報告

 全国の子ども新聞の活動を紹介した特別分科会では、大阪府や宮城県などで地元の話題を取材する子ども記者の小中高生9人が登壇し、やりがいや楽しさを語り合った。
 司会を務めた京都市立堀川高校1年の吉川輝竜(きりゅう)さん(15)は「見て終わるのではなく、(事情を詳しく)知っている人に話を聞くのが楽しい。記事を書くのは大変だけど楽しいから続けられる」と発言。どんな力が身についたかの問いに子ども記者たちは「文章を書く力」「要約して伝える力」「気になったことを調べる力」「取材相手から話を聞くコミュニケーション力」などを挙げ「社会に対し自分の意見を持つようになった」という声もあった。
 全体を講評した元毎日新聞記者でフリージャーナリストの城島徹さん(67)は「何が本当か、フェイクニュースを見極める力が求められる時代に自ら取材し、記事を書く経験は大きなヒントになるし、トレーニングになる」と述べた。(長谷川賢)

子ども新聞の活動を紹介する子ども記者たち

子ども新聞の活動を紹介する子ども記者たち