インターネットや交流サイト(SNS)が普及するなかで、学校での情報端末配備も進み、児童生徒たちは日々膨大な情報に接している。真偽のほどを見極め、必要な情報を活用する力(メディアリテラシー)はこれまで以上に求められている。どう育むか。教育現場では取り組みが続くが、課題もまた多いようだ。
 「フェイクニュースって何だろう?」「どうしたら見抜けるのかな?」
 石狩市の石狩翔陽高校で10月、1年生255人が参加し、北海道新聞社みらい教育推進室の出前授業が行われた。情報化社会について多角的な視点から学ぶ「産業社会と人間」の単元で、同校の宮沢明美教諭は「生徒たちには知識だけでなく、偽・誤情報のフェイクニュースに惑わされないよう判断できる力を養ってほしい」とメディアリテラシー学習のねらいを話す。

出前授業でメディアリテラシーについて学ぶ生徒たち=石狩翔陽高

出前授業でメディアリテラシーについて学ぶ生徒たち=石狩翔陽高

 

■専門家の発信か

 出前授業で講師が取り上げたのは身の回りの情報の問題点とその対処法だ。例えば、昨年流れたSNSの水害情報は、人工知能(AI)技術を使い、本物と見まごう画像が添えられた偽情報だった。大地震で動物園からライオンが逃げた、というのも。こうした偽・誤情報を見極める際の方法として《1》情報源はあるか《2》その分野の専門家が発信した情報か《3》ほかではどう言われているか《4》その画像は本物か―などを確認することの有効性について、総務省の資料とともに教えた。
 また、検索サービスやSNSを利用する上で注意すべきことは何か。利用者の考え方に近い意見や情報を提示するアルゴリズム(情報処理の手順)が採用されているため、便利な一方で、利用者好みの情報が集中してしまう「フィルターバブル」という状況に陥りやすいことなども説明した。
 授業を受けた佐藤初帆(いちほ)さん(15)は「フィルターバブルは自分もスマホで経験しており、気をつけたい」、田井中咲弥(さや)さん(16)は「胆振東部地震の時流れた断水のデマを思い出した。自分で確認するのが大事と分かった」という。2人とも「情報が怪しいと感じたら、新聞やテレビなどほかのメディアを見てみるなど、教わった対策を心がけたい」と話す。

■教育体制整備を

 メディアリテラシーについて、学校ではどう取り組んでいるか。
 高校では主に「情報Ⅰ」「公共」「現代の国語」の中で取り扱っている。
 札幌旭丘高の高瀬敏樹教諭によると、「情報Ⅰ」は週2コマの授業時間があるが、「大学入試に出るプログラミングなどに多くの時間が取られ、リテラシーに割ける時間は減少した。新しいことがどんどん出てきて、もっと丁寧に教えたいが…」と現状を話す。
 小中学校ではどうか。
 学習指導要領には「情報活用能力の育成が重要」とあり、複数の教科で横断的に行うとしている。道教委義務教育課は「『学校に配備された端末をまずは使う』との段階は過ぎ、『児童生徒が安全に効果的・自律的に使える』ことを目指している」という。
 多くの小中学校ではそれぞれ工夫し「総合的な学習」「道徳」を中心に、小学校は「社会」、中学校は「技術・家庭」を加えた複数教科で、端末操作や情報検索の仕方などを教える。リテラシー的な要素は、ネット上のルールや危険性などを扱う「情報モラル」「情報セキュリティー」が主で、時間数の目安はあるものの内容は教師の力量に左右されてしまい、各学校ごとさまざまに取り組まれているのが現状だ。
 札幌市立大谷地小でネットモラルを教える大橋剛教諭は「自転車に例えれば、乗り方やマナーだけでなく事故なくちゃんと走れるかが大事なように、ネット社会に生きる子どもたちが安易に情報をうのみにせず、活用できるようにしたい」と話す。また札幌市立星置中で技術を担当する丹羽恒教諭は「ここ数年のデジタル環境の変化は激しく、学校での取り組みは始まったばかり。リテラシーは現場に任されている感じだ。小中高と系統立てて教員研修やカリキュラムを整えてほしい」と指摘する。

■信頼性高い新聞

 こうした現状に元小学校長の関口修司・日本新聞協会NIEコーディネーターは「日常の学習で継続的に新聞を読み、情報ソースとしてほしい」という。総務省のメディア調査でも新聞の信頼性は高く評価されており、新聞の活用は学習指導要領でも推奨されている。正確な情報に日々接し、紙面を通じて自分の関心の薄い情報にも触れることで、子どもたちに幅広い知識が養われ批判的な思考力を身につけてもらう考えだ。
 「AIなどによる偽・誤情報は巧妙になっており、対策に特効薬はない。怪しい情報に警戒し『情報社会を生きる免疫力』をつけるのが大事。信頼できる情報を中心に、さまざまなメディアを通じて育んでほしい」と関口さんは話している。(杉本和弘)


*批判的に読み解き、活用を*法政大・坂本教授に聞く*「モラル教育だけでは不十分」

 偽・誤情報が身の回りにあふれる今、子どもたちにその見分け方の「メディア情報リテラシー」を教えるのは急務です―。国内外の状況に詳しい坂本旬・法政大教授(メディア情報学)はこう警鐘を鳴らす。現状や課題などを聞いた。

法政大・坂本教授

さかもと・じゅん 1959年生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授。総務省ICTリテラシー向上施策研究会などに参加。

 今は小学生でも6割以上が携帯を持ち、オンラインのニュースに接している。さらにSNSの普及もあいまって、一人一人がメディアとなる時代でもある。みんながテレビ局みたいに発信できてしまう。真偽の定かでないさまざまな情報があふれているのです。
 一方、学校はGIGAスクール構想で1人1台端末配備が進み、調べ学習や探究学習でネット検索をさせていますが、その資料の出所を確認する重要性をあまり教えていない。その情報が信頼できるかどうか、非常に大事なことです。
 偽・誤情報対策について総務省は昨年、各国や国際機関の状況を調査し報告書をまとめました。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「メディア情報リテラシー」という考え方を取り入れています。
 リテラシーとは「読み解き活用する力」です。情報を読み解き批判的に評価するのが情報リテラシー。メディアリテラシーは新聞社やテレビ局などのメディアの機能と役割、表現・報道の自由などについて理解し、そこから得る情報に関わり、表現する力。この二つを組み合わせたメディア情報リテラシーを向上させることが重要です。
 米国では偽・誤情報問題に対し学校図書館などを中心にリテラシー教育を行ってます。メディアリテラシー教育用に作成されたのを、教室で使いやすいよう私が和訳したチェックリストが「さぎしかな」=表=です。参考にしてください。

 日本の教育現場では「情報モラル」教育が行われています。学習指導要領に記載され、カリキュラムがあるからです。ネットの長時間利用やSNSの書き込みなどネット上のリスクを教えています。ただ、1人1台端末が配られ、活用に重点が移っている現状に、「してはいけない」ことを強調する情報モラル教育だけでは対応できません。
 そこで現在注目されているのがデジタル・シティズンシップ(DC)という考え方です。かみ砕いて言えば「デジタル端末を使って自律的に市民社会に参加・貢献する力」です。情報通信技術(ICT)の利活用を前提にメリットとデメリットを評価しつつ、ICTを最大限活用しようとするもので、欧米各国で取り組みが進んでいます。
 メディア情報リテラシーは、このDCの最も重要な部分で、その力を向上させるのが日本の教育の急務です。(杉本和弘)