「俳句に親しみ、俳句を楽しみ、俳句を愛するまちとしての誇り」を掲げ、2014年に「俳都宣言」をした松山市で今夏、NIE全国大会(日本新聞協会主催)が開かれた。大会2日目は、新聞紙面に自作の句を浮かび上がらせる「クロヌリハイク」のワークショップを実施。読解力や表現力の向上に加え、「芸術的なデザインも楽しめる」という教育効果のあるイベントだ。全国から集まった教員や新聞関係者らが、個性あふれる作品を生み出していた。

全国の教育・新聞関係者らが参加したNIE全国大会松山大会の「クロヌリハイク」ワークショップ

全国の教育・新聞関係者らが参加したNIE全国大会松山大会の「クロヌリハイク」ワークショップ

作品を撮影してプロジェクターで映し出し、鑑賞し合う発表会。黒田さん(右)とキムさん(左)が感想を述べたり、作者の思いを聞いたりして会場を盛り上げた

作品を撮影してプロジェクターで映し出し、鑑賞し合う発表会。黒田さん(右)とキムさん(左)が感想を述べたり、作者の思いを聞いたりして会場を盛り上げた

 講師は同市内の愛媛新聞販売店所長で、クロヌリハイクを考案した黒田マキさん(51)と、月刊誌「100年俳句計画」編集長で同市在住のキム・チャンヒさん(55)。講座は8月4日に計2回行われた。2人から「子ども心に戻って句作してください」「使いたい言葉を塗りつぶさないように気をつけて」と指導を受けた計約100人の参加者は、当日の愛媛新聞の紙面とにらめっこして文字を探し、指を折りながら力作をひねり出した。

 栃木県佐野市で新聞販売店を営む原田誠さん(51)は、コラムを使って「朝掘りで筍(たけのこ)一つ季節が薫る」と詠んだ。初挑戦ながら「季語を筍に決め、近くにあった朝掘りという言葉も使って流れの良い句ができた」と喜んだ。
 「子どもの頃から絵を描くのも好きだった」という原田さんは、黒塗りの部分をタケノコとくわの形にした。完成後にみんなで作品を鑑賞し合う発表会では、黒田さんから「句も良いけど絵も楽しい」と高評価を得て、参加者から大きな拍手を受けていた。
 このほか、会場から「意外と簡単に俳句が作れた。学校で児童たちにも体験させたい」「記者が苦労して書いた記事を塗りつぶすことに、少し後ろめたい気もする」といった声も上がっていた。
 ワークショップを終えて黒田さんは「皆さんが無心になり、紙面上の多くの文字からピッタリくる文字を探し求めていた。多くの秀句を作っていただいた」と振り返った。

ワークショップで完成した原田さんの作品。文字の周りをタケノコとくわの形に塗った

ワークショップで完成した原田さんの作品。文字の周りをタケノコとくわの形に塗った

 

 「ゼロから俳句を作るよりも簡単なので、子どもたちにとって壁が低くなる」と、教育的な意義を強調するのは愛媛県西予市で「雫(しずく)句会」を主宰している元同県教育委員会委員の西田真己(まみ)さん(60)だ。
 「5・7・5の言葉を探して知らず知らずのうちに新聞に親しむ。表現したい内容にピッタリの言葉を探すのは、国語のテスト『10字以内で適当な言葉を探しなさい』という問題を解くのと同じ頭の使い方」と、読解力の養成効果も指摘する。さらに「心に残る体験の感想は『面白かった。楽しかった』で終わる子どもが大半だが、俳句は具体的なことを書かざるを得ないので、自分が何のどこに感動したのか分析し、表現できるようになる」と話す。
 キムさんも「クロヌリハイクは俳句の文言だけでなく、黒塗り部分のデザインや全体の雰囲気など、ほめる所がたくさんあって、学校の授業にも取り入れやすいはず」と述べ、さらなる普及を願っていた。
 愛媛新聞販売所協同組合などは18年からクロヌリハイクコンテストを主催。初回は愛媛県内外から800点を超す応募があった。6回目の今年も818点が寄せられ、10月下旬に結果が発表される。(福元久幸)

*「想像力を超えた表現できる」*3回優秀賞 下川の俳人・鈴木牛後さん

酪農の傍ら句作に励み、クロヌリハイクコンテストで優秀賞を3回受賞している鈴木牛後さん

酪農の傍ら句作に励み、クロヌリハイクコンテストで優秀賞を3回受賞している鈴木牛後さん

「菜園に 育て子どもと サツマイモ」と詠んだ昨年の鈴木さんの作品(受賞作を紹介した2022年10月29日付愛媛新聞から)

「菜園に 育て子どもと サツマイモ」と詠んだ昨年の鈴木さんの作品(受賞作を紹介した2022年10月29日付愛媛新聞から)

 上川管内下川町で50頭ほどの牛を飼う鈴木牛後(ぎゅうご)(本名・和夫)さん(62)は、クロヌリハイクコンテスト初回の2018年と20、22年の計3回、優秀賞を受賞している。旭川市の俳句結社「雪華(ゆきはな)俳句会」に所属。18年に角川俳句賞、19年に北海道新聞俳句賞を受賞した俳人だ。クロヌリハイクの面白みは「普段なら思い付かない意外な言葉の組み合わせが生まれること」。今年の第6回コンテストにも応募している。
 月刊誌「100年俳句計画」でコンテストの作品募集を知り、クロヌリハイクを始めたという鈴木さんは例年、締め切り2週間ほど前から新聞を広げ、応募作を手がけ始める。昨年の優秀賞受賞作は「菜園に 育て子どもと サツマイモ」だった。
 クロヌリハイクには、一つの紙面の中だけで言葉を探し、完成させるという決まりがある。加えて「俳句には原則5・7・5で詠むという限定があるので、二重の限定の下で試行錯誤して言葉をつなぎ合わせるのは、パズルをしているような楽しさがある」と話す。
 句作する際のコツは「発想を限定しないことだ」という。「とっぴな表現になったとしても、新聞紙面から言葉を選んだと思うと使いやすくなり、自分の想像力を超えた表現ができる」と話した。
 クロヌリハイクには、黒塗り部分のデザインが素晴らしいものも多い。鈴木さんは「自分には絵心が無いけど、絵の得意な人は工夫を凝らした見せ方も楽しめる」と、創作の魅力をアピールしていた。(福元久幸)

◇クロヌリハイク◇

 黒田マキ(本名・杉本恭《たかし》)さんが2013年、米国のアーティストで詩人のオースティン・クレオンさんが、新聞を塗りつぶして詩を創作していることを本で知り、考案した。作り方はまず、新聞から選んだ一つの面を開き、記事や見出し、広告などから季語を探す。続いて同じ紙面の中から使えそうな言葉を拾い、つないで俳句にする。それ以外の不要な部分をマジックで黒く塗りつぶして、紙面に俳句を浮かび上がらせれば完成だ。同じ紙面の中なら複数の記事にまたがっても良い。