「課題探究的な学習における新聞活用」をテーマとした北海道NIE推進協議会(菊池安吉会長)主催の第8回NIE北海道セミナーが9日、札幌市中央区の北海道新聞社で開かれた。自ら問いを立てて情報収集し、解決へ導く能力を育む「探究学習」について、日本新聞協会認定NIEアドバイザーを務める冨樫忠浩教諭(空知管内栗山町立栗山小学校)、山田耕平教諭(札幌市立篠路西中学校)、武井翔教諭(オホーツク管内遠軽町立丸瀬布中学校)の3人が発表した具体的な取り組み例を紹介する。(写真はいずれも菊地賢洋)

*栗山小の冨樫忠浩教諭*被災地から「笑顔」発信

富樫教諭 冨樫教諭は、胆振管内安平町立早来小学校勤務当時に経験した胆振東部地震後のボランティアに関する学習や、児童らの発案で取り組んだ「8000人の笑顔プロジェクト」について報告した。
 被災後、総合的な学習の時間で児童たちは、避難所で自分たちができるボランティア活動を考え、お年寄りの話し相手、小さい子への読み聞かせなどに当たった。支え合いについて理解を深めた児童たちは「(復旧工事の方々への)感謝を忘れない」「もっとみんなの役にたちたい」「いつか必ず恩返しがしたい」といった感想を家庭学習ノートなどに書き残したという。
 また、被災した当時の安平町の人口8千人と同数の笑顔の写真を集めるプロジェクトも始動。途中経過を報告した北海道新聞「ぶんぶんtime」への投稿のほか、報告会や撮影会の開催などが新聞やテレビで大きく報道され、約3万5千もの笑顔が集まったことを紹介した。
 総合的な学習の時間を使ったNIEについて冨樫教諭は「自己の生き方を考える契機」「積極的に社会に参画しようとする態度を育む」「社会と子供たちをつなげる」など7項目を指摘し、その意義を強調した。(福元久幸)

*札幌・篠路西中の山田耕平教諭*日直がニュースを紹介

 山田教諭は「自立した学習者」に育てるために、課題を解決する思考力・判断力・表現力を育成する取り組みを「身近な実践」として発表。特に生徒が自分の考えを発表する工夫を紹介した。
 原則毎日行っているのが、朝の学活でその日の日直の生徒が発表する「今日のニュース」。新聞などから興味を持ったニュースを選び内容と感想を話す。コミュニケーション能力とプレゼンテーション能力の育成が狙いと生徒に説明した上で実施した。山田教諭は「高校受験の面接対策も視野に入れている」と話す。
 2年生が3年生になった時の学年の目標を、はがきに近い大きさの「はがき新聞」にまとめた取り組みも報告。こうした学級経営・学年経営の指導を行う上で「新聞は効果的なツールの一つ」と語った。
 担当の社会科では、生徒が興味を持った記事を切り抜き、コメントを書き添える取り組みを行った。能登地震を例に挙げ「新聞記事で北陸地方と北海道という距離と時間のギャップを埋めることができた」。
 最後に、今求められている個別最適な学び、協働的な学び、主権者教育などは「NIEと親和性が高い」と話した。(小田島玲)

*遠軽・丸瀬布中の武井翔教諭*記事検索し課題を設定

 「探究サイクル」を基にした新聞活用について紹介したのは国語科の武井教諭だ。探究サイクルでは《1》興味・関心《2》疑問・課題設定《3》追究・検証《4》振り返り・発表を通じて学びを深め、振り返りによって生まれる新たな気付きから、再び《1》~《4》を繰り返すという学習スタイル。「個別最適な学びを実現できる」と推奨した。
 授業で北海道新聞や中高生新聞を読んだ生徒たちが《1》の興味・関心を寄せたテーマは「クマ駆除」「SDGs」「LGBTQ」など。これらをキーワードに総合デジタル教材「どうしん まなbell(べる)」で記事を検索すると、幅広い社会生活上の課題について具体的な情報が得られ、《2》の疑問・課題設定となる。
 ここで武井教諭は課題についてより具体的に考えさせたり、視点を変えさせたりして生徒ごとに個別指導し、《3》の追究・検証を行うと説明した。
 さらに北海道新聞のコラム「卓上四季」をたくさん読み、文章の書き出しについて学んでから、《4》の振り返り・発表として北海道新聞「ぶんぶんtime」に投稿。「意見文を投稿する場があることで活動のゴールが見え、意見を述べる経験ができるのが良い」と振り返った。(福元久幸)

*「信頼度の高さも重要」*指導主事2人が助言

 北海道セミナーでは、参加者がグループに分かれて意見や感想を話し合ったほか、教育委員会の指導主事2人が助言を行った。
 札幌市教委の佐藤雅哉指導主事は、発表者3人の共通点として「子供たちに現実社会への問題意識を持たせ、自分の意見を持たせることを大切にしている」と評価。新聞活用の利点は「新聞を通じて社会事象に容易に出合える点」などと述べた。
 道教委の石垣友和主任指導主事は、指導の個別化と学習の個性化が求められており、「新聞活用も本来子供たちが主体的に選択するもの。子供たち自身が、情報としての新聞の信頼度の高さなどを知る必要がある」と話した。
 参加者からは「インターネットでも意見を発信できるが、信頼度が高い新聞でも発信することで世の中と結びつく」「子供たちがネットで検索しても良い情報にたどり着けない」との意見があった一方、「将来は紙の新聞の活用が難しくなるのでは」「今後のNIEのキーワードはデジタル」との発言も出ていた。(小田島玲)

*「実践指定校」3校表彰

実践指定校3校の代表者

菊池会長(右)から表彰状を受け取る実践指定校3校の代表者

 2023年度に優れた新聞活用を行った札幌市立義務教育学校福移学園、十勝管内浦幌町立上浦幌中学校と札幌新陽高校の3校が、北海道セミナーで表彰され、各校代表が取り組み内容を発表した。
 3校は、日本新聞協会から提供を受けた新聞を授業などで活用する「実践指定校」35校の中から、小中高1校ずつ選ばれた。
 福移学園の福本勇太教諭は、総合デジタル教材「どうしん まなbell(べる)」にある記事データベースで自分たちが住む福移地域のことを調べ、新聞にまとめた社会科の例などを報告。上浦幌中の中村宏喜教諭は、情報収集から編集、新聞形式での発信に至るまでの取り組みを発表した。札幌新陽高の桜庭彩寧教諭は、生徒が1年間のニュースを調べ「今年の漢字」を考えてみる取り組みを紹介した。(小田島玲)