過去の新聞記事を検索できるデータベース(DB)は、多くの小中高校で広がっているが、積極的に活用している大学もある。「記事を読むことは学生にとって研究への入り口となる」と話す関西学院大人間福祉学部(兵庫県西宮市)の白波瀬(しらはせ)達也教授(45)=社会学=のゼミで行われている新聞活用方法を紹介する。

白波瀬達也教授(中央)のゼミで持ち寄った記事を基に話し合う学生

学生らが記事DBで検索した記事を貼り、気づきや疑問を書き入れた模造紙

 白波瀬教授のゼミは3年生になってから卒業までの2年間。3年生のゼミは今年4月から11人で始まっている。学生は、おのおの関心ある社会の課題を研究テーマとして仮設定し、大学が契約している全国紙など6紙の記事DBで記事を検索することから始めた。
 5月13日、学生が各自で検索して選んだ記事数点を持ち寄ったゼミでは2グループに分かれ、グループ内で1人ずつ記事の内容と選んだ理由を説明。その間、他のメンバーから意見や感想、情報提供があり、雑談が始まることもあった。
 学生が仮設定したテーマは「西宮の地域振興」「フィリピンの貧困」などさまざま。「学歴と教育格差」をテーマに選んだ三平菜桜(さんぺいなお)さんは、地域によって子どもの学力が違うことなどから、教育や学歴の意味を考えたいと説明した。
 この後、グループごとに模造紙に記事を貼り、記事同士の関連や疑問、気づきなどを記入。最後にグループ全員が教室の前へ出て、取り上げた記事の内容などを説明した。
 普段の生活では新聞を読まないという学生がほとんど。今回、多くの記事を読んでどう感じたか。山崎大暉(たいき)さんは「インターネットだと『違うだろう』と思う情報もあるが、新聞は『事実だろう』と感じた」。出来(でき)誠也さんは「数字がしっかり書かれていて信ぴょう性が高く、安心して読める。ネット上の情報は信じ切ってはいない」と話し、信頼できるイメージを持ったようだ。
 一方で三平さん、山崎さん、出来さんとも「新聞の縦書きの文章は読みにくい。特に縦書きの算用数字は見づらい」と口をそろえた。
 記事DBの検索を経た学生たちは現在、学術論文や学術書を通じてテーマを掘り下げ、再検討を行っているところ。今後は研究を深めていき、卒業論文までつなげる予定だ。(小田島玲)

*「個人の興味と社会的意義結ぶ」*白波瀬教授

 関西学院大の白波瀬教授に新聞を活用する狙いについて聞いた。

 ―ゼミの最初になぜ新聞記事を読むのか。

 「学生が最初に考える研究テーマは、漠然としていたり非常に個人的なものになったりすることがよくある。個人的に重要なだけでは研究にならないので、社会的重要性に結びつけなければならない。まず記事を読むことでその問題を社会がどう捉えているか知ることができる。いきなり学術的な文献を読むのはハードルが高く挫折することもあるが、記事を読むのは研究に入る前のステップになる。本1冊を読むより記事20本読む方が容易ということもある。本の内容は著者の考えに偏るが、多くの記事を読むと多様な視点が得られる」

 ―先生が選んだ記事を読ませるのではなく、学生自らDBで検索する理由は。

 「DBを使いこなせるようにするのが第一。自身で調べることで意外な気づきがある。関心あるテーマならなおさらだ。また同じ問題でも時代によって、また新聞社によって捉え方が異なるのも分かる」

 ―記事を持ち寄りグループ内で説明し模造紙に貼るのは、新聞ワークショップの「まわしよみ新聞」の手法だが、狙いは。

 「話すのが苦手な学生も記事を媒介することで、会話の質を上げることができる。記事を説明するというより、記事を使って自分の考えを説明するのが目的。他人の関心を知るのも面白いことだと知ってほしい」

 ―いつからこの取り組みを。

 「記事DBは昔から使っていた。まわしよみ新聞は大阪の陸奥賢(さとし)さんが考案して取り組み始めた2012年から間もなくして取り入れた。二つを合わせて進化させたのが今の形。『適切な知識の収集』と『学びに基づく他者との交流』の両方を目指している」

 ―高校生でもこうした学習は可能か。

 「DBを使えるなら可能だ。中学生でも慣れればできるのでは。新聞は他のメディアと比べ、相対的に信頼性の高いメディアだと考えられている。探究型の学習では、どの情報源を使うかが大変重要だ」(聞き手・小田島玲)

*「新聞に親しむための突破口」*藤女子大非常勤講師・三上さん

 元中学国語教師・司書教諭で、記事DBの活用に長年取り組んできた藤女子大(札幌)非常勤講師の三上久代さんは「学生や生徒に使わせてみると反応が良い。新聞に親しむための突破口になる」と期待する。
 三上さんは昨年12月、担当した「学習指導と学校図書館」の授業で北海道新聞社の協力を得て、学生11人に記事DBとしても使える小学校から高校向けの総合デジタル教材「どうしん まなbell(べる)」(有料)を使う体験をさせた。授業後のアンケートで全員から「(記事DBは)図書館が情報を提供するサービスのツールとしてのほか、児童生徒の探究学習にも役立ちそう」との回答を得た。学生からは「教員になった際、新聞を活用した授業の幅が広がる」「DBも紙の新聞と同じく複数紙を使える方が望ましい」などの意見があった。
 三上さんは一覧性など紙の紙面の良さを知ることが重要としつつ「記事DBは探究学習の有力なツール。学びの効果は大きい」と評価する。(小田島玲)