お母さんは、男の子も料理ができないと困るからと言って夕食の支度の手伝いをさせますが、正直面倒です。料理ができるようにならないとダメですか。お父さんは、料理なんかできなくても困らないから、もっと大きなことをしろと言います。

回答者 松本伊智朗さん(北海道大学大学院教育学研究院特任教授)

  料理ができなくても一概にダメだとは言えません。例えば、けがや病気、高齢で手を使う作業が難しい場合、他の人に作ってもらったり、買ってきたものを食べればよいと思います。お年寄り向けの福祉サービスの一つに食事の提供がありますが、これはとても大事な仕組みです。忙しい時や疲れている時、外食もアリです。私もよくします。
 でも、料理ができることで、良いこともたくさんあります。受験勉強でおなかがすいた時、親に隠れて自分で夜食を作れます。自由を一つ手に入れた気分です。進学や就職で1人暮らしを始めると、自炊の方が断然お金の節約になります。好きなものを一つ余分に買えます。友達に自分が作った料理をふるまえば、ぐっと仲良くなれます。恋が芽生えるかもしれません。ひっくるめて言えば、人生を豊かにします。
 ところで、お父さんが困っていないのは、おそらくお母さんが料理をしているからですね。料理のような「家事」にはお金が支払われないので、外でお金を稼ぐよりも簡単で価値のない「小さなこと」のように思われがちです。でも家事はとても大変で、かつそれがないと日々の生活が崩れてしまう大事な営みです。
 しかし、これまでは「女性がするのが当たり前」と思われてきたので、その大変さや大事さが意識されず、男性と女性の間の不平等がなかなか改善されませんでした。大変なこと、大事なことは男性も女性も皆が平等に担うべきです。
 料理のような「小さなこと」は、実は世の中の仕組みという「大きなこと」と密接につながっているのです。自分でやってみることで、そのことを実感できます。
 料理はこんなにすてきなものですから、面倒がらずにやってみましょう。簡単なものでいいので、得意料理が一つできると楽しくなります。あと、最後にお皿を洗って片付けるまでが料理だということも、忘れないでくださいね。

 質問は過去の相談事例や投稿を基に再構成しています。