NIE実践 工夫を紹介*推進協総会
掲載日:2023.05.29
北海道NIE推進協議会(菊池安吉会長)の2023年度定期総会が13日、札幌市中央区の北海道新聞本社で開かれた。22年度に優れたNIE活動を実践した夕張市立ゆうばり小、札幌市立栄町中、富良野高の3校を表彰。各校の代表が活動内容を発表した。また、地域のNIE活動をサポートする日本新聞協会認定のNIEアドバイザーに、旭川市立春光台中教諭の庭瀬奈穂美さん(51)と釧路管内浜中町立霧多布中教諭の佐藤健翔(けんと)さん(31)が新たに選ばれた。
*夕張市立ゆうばり小*代表・冨樫忠浩さん*写真を見せ国語力育成
夕張市立ゆうばり小は2018年度からNIEに取り組み始め、今年で6年目。新聞を活用した国語力の形成を目指している。
「教育の現場は忙しい。だからこそ無理はせず、日々の授業に新聞を絡める方法を考えています」。22年度の同小代表教諭で、現在は空知管内栗山町立栗山小学校勤務の冨樫忠浩さん(48)は話す。
ゆうばり小は、有村宏紀校長が率先して地域の話題が書かれた新聞記事を掲示。児童がニュースに触れる機会を積極的につくる。
授業では、のぼりべつクマ牧場のロープウエーを使ったサケの干物作りの写真を示し、見出しが「サケ空中散歩」としゃれていると紹介した。記事と写真を見せて「どんな見出しをつけられるか」と問い、児童の言語能力を育んでいる。
また、21年度に続き、日本新聞協会主催の「いっしょに読もう!新聞コンクール」を活用。家族や友人との意見や感想の交換を促し、「自分の考え」を深めた。同小からは4年連続入賞者が出ており、22年度は児童1人が奨励賞に輝いた。
冨樫さんは「(インターネットやパソコンが普通にある環境で育った)デジタルネイティブの子供たちは、ネット上でうそ情報に触れてしまうことがある」と指摘。「新聞記事をフィルターにすることで世の中を見る目を養いたい」と話した。(石川仁美)
*札幌市立栄町中*代表・児玉優子さん*学校図書館が「ハブ」に
札幌市立栄町中は学校図書館がNIE活動の発信拠点になっている。教員の授業づくりを縁の下で支え、生徒たちの豊かな学びをサポートする要の存在として奮闘するのが学校司書の児玉優子さん(54)だ。昨年度が実践指定校1年目。児玉さんは「図書館が学校におけるハブ(車輪の中軸)であることをこの1年間で実感した」と話す。
掲げたキャッチフレーズは「スキマ時間にNIE」。図書館前と職員室前に新聞の閲覧台を設置し、休み時間や放課後のちょっとした空き時間に読めるようにした。記事内容に関するクイズや短い解説文をつけ、書店のポップのように生徒の興味を引く工夫も。
ニュースに関連した書籍も一緒に展示する。たとえば、ノーベル賞作家の大江健三郎さんが今年3月に死去したことを伝える訃報に合わせ、大江さんの著書を展示した。「新聞を読むだけでなく本とつなぐことを意識している」という。
授業を中心とした学校教育の現場で、新聞活用の鍵になるのが記事のファイリング(整理と保存)だ。いつ、どの新聞に掲載され、続報や特集など関連記事をすぐに探し出すために索引が欠かせない。「誰が引き継いでも使いやすく持続可能なものに」。児玉さんが指摘するポイントは、NIEの普及発展にも通じる。(長谷川賢)
*富良野高*代表・北村智裕さん*3教科横断 平和教育も
実践指定校3年目の富良野高は、教諭の北村智裕さん(49)が代表を務め、国語と英語、地歴公民の3教科の教員が連携して進めてきたのが特徴だ。
国語科では10分間の朝学習の時間に新聞コラムを読み、キーワードなどが入る穴埋め問題を解き、感想を100文字ほどの短文にまとめた。英語科では英字新聞を読んで学ぶ。興味・関心のある記事を読んで異文化理解を図り、時事問題への関心も高める。地歴公民では毎月1回、新聞に関わるスピーチを行う。生徒が政治、経済、環境問題などの記事を切り抜き、要約と意見、感想を述べる。
3教科横断的に行ったのは、九州への見学旅行に向けた事前学習だ。長崎の平和教育や熊本城の復旧などの記事を活用。日本新聞協会の「いっしょに読もう!新聞コンクール」に応募した。同コンクールで同校は20年度から、3年連続の学校奨励賞を受賞している。
同校ではさらに、気になった記事を切り抜いて台紙に貼り、自分の考えを書き込んで発表する北海道新聞の「新聞切り抜き作品コンテスト」にも参加。新聞を通じた学びを深めている。
北村さんはNIE活動に取り組む意義について「SNS(交流サイト)で短い文章になじんでいる生徒が、NIE活動を通じて分量の多い文章にも触れるし、地域の問題にも目を向けるようになる」と指摘している。(福元久幸)
*新アドバイザー2人が抱負*庭瀬さん 多様な価値観学ぶ/佐藤さん 教員の輪広げたい
新たにNIEアドバイザーに選ばれた庭瀬奈穂美さん=写真右=と佐藤健翔さん=同左=が抱負を語った。
社会科教諭の庭瀬さんは、道教大付属旭川中で勤務していた2011年からNIEに取り組み始め、上川地区の活動をけん引してきた。社会科のほか、道徳の授業でも新聞を活用。記事の比較を通じ生徒に「社会には多様な価値観がある」と伝えることを心がける。「教室での学びと社会の出来事が結びつく授業を」と抱負を語った。
佐藤さんも社会科担当。道教大釧路校に在学中、同校と地域の教員との合同研究が行われ、NIEに関心を持った。同校大学院を経て釧路市内の中学でもNIEに取り組んできた。生徒が視野を広げ自らの進路を考えるためにも「新聞には可能性が秘められている」と指摘。NIEを行う教員の輪が広がるよう「アドバイザーとして微力ながら頑張りたい」と話した。
本年度、道内ではアドバイザー13人が活動する。(石川仁美、福元久幸)