2018年9月の胆振東部地震のときのことだ。北海道のほぼ全域でブラックアウトが起き、私の街でも電気が数日使えなくなった。家の中がとりあえず落ち着いてから外に出ると、電気がついていないだけでなく、ふだんよりも周囲が静まり返っていた。不自然な街の様子に「自分の知っている街とは違う所のようだ」と不安になりながら歩いていた。
 信号機もつかず、交差点では警察官の人たちが手信号で交通整理をしていた。私も横断歩道を渡ろうと待っていた。すると、通りかかった車の窓が開いて、運転席の人が手信号をしている警察官に向かって「おまえらは何の役にも立っていない。おまえらがちゃんとしないでどうするんだ」と怒鳴った。
 私はそれを聞いて無性に悲しくなり、横断歩道を渡るときに「ありがとうございます」と大きな声で言った。その時、その警察官が顔をくしゃくしゃにした。その何ともいえない表情を、私は忘れられない。