教育現場では今、二つの大きな潮流がある。一つは新学習指導要領の「生きる力」を育成するための「新しい学び」。もう一つはデジタル社会に対応した「ICT教育」だ。NIE全国大会札幌大会(8月、日本新聞協会主催)や道内のNIEセミナーでの実践例を紹介する。(森田一志)

*新しい学び*協働学習で多面的な視点

新聞記事三つを読んでそれぞれの特徴をまとめる札幌・真栄中1年生。全国大会のオンデマンド配信のため公開授業が収録された=8月31日(札幌・真栄中提供)

新聞記事三つを読んでそれぞれの特徴をまとめる札幌・真栄中1年生。全国大会のオンデマンド配信のため公開授業が収録された=8月31日(札幌・真栄中提供)

 「よくあれだけ難しい課題を取り上げたね。うまい授業だ」
 北海道NIE推進協議会の前会長、高辻清敏さんは映像を見て感心した。
 映像は、オンデマンド配信中の中学1年国語の公開授業「説得力ある文章の工夫」。札幌・真栄中教諭の遠藤翔太さんが、クラスの30人余りに対し「デジタルか、紙か」をテーマに行った。
 記事はデジタル化への対応が異なる三つ(A~C)を選んだ。Aは「デジタル教科書」導入に医学的見地から慎重な専門家の意見。Bは「紙からデジタルへ」の移行を歓迎するかを読者モニターに問う記事(グラフ付き)。Cは端末1人1台の授業を推進する学校のルポだった。
 生徒は4人一組で記事構成にどんな工夫があるかを考えた。記事を読み比べ、グループワーク(協働学習)を通じそれぞれが意見を提示する。討議を経た全体交流では代表1人ずつがA、B、Cの文章の特徴を発表した。遠藤さんは「AやBは意見文で、結論から始まるほうが分かりやすい。Cのような説明文は導入―事例の順が一般的」と違いを簡潔に説明した。
 遠藤さんが新聞を教材に授業を始めたのは今春だった。新1年生の新聞購読率が3割足らずだった。週2回の国語の授業に力を入れ、冒頭で新聞を読んで感想文を書かせる実践を続けた。4人一組で交流する実践は次第に慣れて時間は短くなり、「生徒は、格段に新聞が読めるようになりました」と成長を喜ぶ。
 全体で6時間の最終時には、生徒が三つの記事を読んで何を感じたか、自分の考えを説得力ある意見文にした。遠藤さんは今大会のスローガン「新しい学びを創るNIE」を具体化すると「協働学習を行い、多面的多角的な見方ができるようになること」と授業の意図を語った。
 分科会の助言役だった根室管内標津町立標津中校長、飯田雄士さん=NIEアドバイザー=は三つの記事を一緒に扱うのは難しいと思ったが「生徒は内容、構成や展開の仕方、根拠のデータを読み取った」と遠藤さんの指導を評価した。
 2002年札幌大会当時、高辻前会長はメインに三つの公開授業を組み立て全国からの見学者を迎えた。19年ぶりの今大会では公開授業だけで8、合計25プログラムに膨らんだ。そうした経験からNIEが寄り添う教育をこう総括する。
 「今の授業では協働学習が進んだ。子どもたちがいろいろと話し合って互いの意見がなぜ違うのかを考える。それが、自分で課題を設定し解決する次の学びにつながっていく」

*ICT教育*紙面と併用 情報を深掘り

「興味深い授業でした」と多くの意見や感想が寄せられた上川地区セミナー。オンラインを含め70人以上が参加した=11月11日、北海道新聞社旭川支社

「興味深い授業でした」と多くの意見や感想が寄せられた上川地区セミナー。オンラインを含め70人以上が参加した=11月11日、北海道新聞社旭川支社

 遠く離れた道南の高校教諭がいれば、旭川の大学生たち、そして司会のNIEアドバイザーの姿も…。
 北海道NIE推進協議会の上川地区セミナーは11日、北海道新聞社旭川支社を拠点に開かれた。オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」でスクリーンに多くの顔が並んだ。
 旭川明成高生の収録授業が配信された。11人がグループ別で設定した生物の課題を討議し発表。検索にはタブレット端末で北海道新聞社の教育用記事データベース(DB)「まなbell(べる)」を活用した。同高はICT(情報通信技術)教育を道内でもいち早く取り入れたと言う。
 旭川市内の中学教諭は「新聞とICTを一緒に活用すると、可能性が広がる」と述べた。セミナーではもう一つ、富良野市の小学校で行っている新聞制作の実践例の発表があった。当日の参加者は76人に上り、オンラインの利用者が圧倒的に多かった。
 道内で年間10回程度あった地区セミナーは昨春以降、新型コロナウイルスの感染拡大でほぼ中止を余儀なくされた。10月の再開後はオンライン開催で回を重ね、遠隔地から気軽に参加できるようになった。
 コロナ禍の教育現場ではデジタル化が加速した。小中学校に1人1台の情報端末を整備する国の「GIGAスクール構想」が2年前倒しで始まった。子どもの在宅学習にも活用され、教員の働き方改革にもつながる。来年度から導入が始まる高校でも整備にはおおむね前向きという。
 アナログの新聞紙面を主に教材にしたNIEはDBや電子新聞で使い勝手が向上し、ICTとの垣根も低くなりつつある。NIEアドバイザーで市立札幌旭丘高教諭(専門・情報)、高瀬敏樹さんは「ICTを使うことで情報の共有もしやすくなる」と利点を話す。
 実際、全国大会オンデマンド配信中の分科会では、デジタル技術が新聞教材の活用をサポートしている。
 全国大会でも特別分科会の「GIGAスクール時代におけるNIEとICT」には横浜市立荏子田(えこだ)小教諭、浦部文也さんが出演した。ICTに詳しい浦部さんは複数紙のDBを使った授業を実践。新聞情報はインターネットより正確で豊富といい、検索すると多くのヒット数があり「子どもたちの大歓声が上がった」。道外の新聞各社はこうした取り組みを深掘りして記事掲載した。
 収録で浦部さんと対談した放送大学教授、中川一史さん(札幌出身)は「『デジタルか アナログか』という選択ではなく、『デジタルも、アナログも』です」と、今後の学びには両立することが必要だと結論づけた。

NIE全国大会札幌大会の公開授業や実践発表など全25プログラムのオンデマンド配信は30日で終了する。