第26回NIE全国大会札幌大会(日本新聞協会主催)の特別分科会「日本の産業基盤を築いた日本遺産『炭鉄港』」がオンデマンド配信のため8月17日、特設会場の道新ホール(札幌市中央区)で収録された。学びを深めるために「地域教材」と新聞記事をどう使うのが効果的か。登壇者4人は市立美唄中と結んだライブ中継の公開授業から、ヒントを探った。(森田一志)

タブレット端末で炭鉄港の記事を効率的に読み込む生徒たち。特設会場の登壇者たちは中継で見守った

タブレット端末で炭鉄港の記事を効率的に読み込む生徒たち。特設会場の登壇者たちは中継で見守った

  「過酷な労働は命懸けだった。帰りを待つ家族の不安を思うと胸が苦しくなる」。美唄中の3年男子は1981年、北炭夕張新鉱事故の生存者の証言を記事で読み述べた。特設会場では登壇者がスクリーン越しに見守った。
 生徒の発言は旧産炭地・空知の過去と現在の流れを学ぶ直近2回の授業を振り返った時のことだ。暮らしや労働のほか、93人が犠牲になったガス突出事故からの生存者の記事で鹿糠昌弘教諭は「家族の気持ち」を強調した。続いて未来に向け「炭鉄港」関連で菓子開発に取り組む三笠高生、空知と鹿児島県の小中学校が炭鉱をともに学ぶオンライン学習の記事にも触れた。
 3年生29人は1人1台のタブレット端末で、この中から関心ある記事を選び「食を通じて炭鉄港を学べる」「小学生から地元を知り、遠くと交流するのは貴重な体験」と理由も述べた。

旧三菱美唄炭鉱立て坑やぐらを見学する美唄中生=2020年7月

旧三菱美唄炭鉱立て坑やぐらを見学する美唄中生=2020年7月

 炭鉱閉山で過疎が進む空知の記事も使った。最盛期には9万人を超えた美唄も現在は2万人だ。鹿糠さんは美唄の次世代がどうマチのイメージをプラスに変えていくか提案した。生徒は、それに応えまちづくりについてグループ討議し「美唄らしさのある街をつくりたい」「歴史を守り抜いた人たちに代わり私たちが次につなげる」と積極的なアイデアを相次ぎ出した。
 美唄中の炭鉄港の取り組みは3年がかり。1年社会科地理には世界の諸地域、2年の歴史では産業の近代化、3年では公民のまちづくりに絡めて学ぶ。旧三菱美唄炭鉱の立て坑やぐらなどの町内見学も行い、じっくりと種をまいてきた。
 鹿糠さんは18歳選挙を生徒に意識してもらい、「自分たちがまちづくりをしていくことを再確認してほしい」と授業を締めた。

美唄中と特設会場に参加した5人の公開授業についての感想は次の通り

■美唄中

<授業者> 鹿糠昌弘教諭

市立美唄中 鹿糠昌弘教諭

生徒の理解意識

 私は炭鉱跡などに実際に足を運び、さまざまなことを感じ理解してはいるが、それが生徒にどこまで伝わっているかを常に意識している。生徒の興味が広がり、次は自分たちがもっと学びを深めようとする姿勢が、これからの社会を生き抜く力だと思う。生徒たちには炭鉄港の授業を学んだことを生かして、充実した高校生活を送ってほしい。

■特設会場

<発表者> 吉岡宏高理事長

NPO法人炭鉱の記憶推進事業団 吉岡宏高理事長

新しい価値生む

 異なるものを組み合わせて新しい価値を生んでいくことが大事。炭鉄港がまさにそうです。小樽、室蘭、空知を一緒につなぐ構想なんてなかった。それがつながると、(日本遺産認定などの)大きな動きが出てくる。視界が開けていくと、やりたいこともでてくる。生徒にはそうしたわくわく感を感じてほしい。

<発表者> 山口真理絵記者

北海道新聞社旭川報道部 山口真理絵記者

足元の魅力取材

 炭鉄港は岩見沢勤務の時に取材し、すごくおもしろいと感じていました。今は旭川で三浦綾子さん、コメ作り、優佳良織などの街の魅力に出合っています。足元の魅力を掘り起こす取り組みを今後も取材し、そこに携わる人の熱い思いを紙面にしていきたいです。今回の授業を見て再認識しました。貴重な機会を頂きありがとうございました。

<司会> 冨樫忠浩教諭

市立ゆうばり小 冨樫忠浩教諭(NIEアドバイザー)

記事通じ「対話」

 炭鉄港の授業の意義は、自分が生まれ育ってきた街に誇りを持てることです。生徒は炭鉄港を取材してきた山口記者の記事などを通して多くの先人や地域の方々と「対話」をしました。今後、求められる「NIEの新たな可能性」です。「自分もまちづくりを担う一人である」という意識を子供たちに持ってほしい。

<助言者> 安藤俊介主査

道教委学校教育局 安藤俊介主査

明確な視点必要

 地域教材の炭鉄港は社会科で言えば歴史、地理、公民などいろんな切り口で活用できます。だから明確な視点を持つことが必要。子どもにより効果的に学習を深められます。若手の小学校教師時代、先輩に「足で稼いで来い」と言われ教材探しの取材で町を歩きました。新聞記者に適当な資料がないかを相談できれば効率の良い授業ができます。

炭鉄港
 空知の炭鉱、室蘭の鉄鋼、小樽の港などからなる日本遺産。2019年5月に認定された。北海道の近代化を支えた産業がエネルギー政策転換で衰退した歴史に光を当てた。各地の炭鉱跡や旧国鉄手宮線など構成文化財は45件(空知などの12市町)に及ぶ。とりわけ炭鉱は三菱美唄炭鉱立て坑やぐらや夕張の北炭施設なども入る。空知の炭鉱は1879年(明治12年)開抗の幌内炭鉱以降、増え続け1960年代には最多112を数えたが、95年の空知炭礦(歌志内市)閉山で一時代を終えた。