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北海道新聞に掲載されたNIE 関連の記事などを紹介します。

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被災地の復興、未来考えた*盛岡市、大槌町で全国大会

 新聞の教育現場での活用を考える第23回NIE全国大会(日本新聞協会主催)が7月26、27の両日、盛岡市と岩手県大槌町で開かれ、全国から教育、新聞関係者ら約1600人が参加した。東日本大震災で大きな被害を受けた東北3県(岩手、宮城、福島)では震災後初の開催。大会スローガン「新聞と歩む 復興、未来へ」を受けて、公開授業や実践発表では震災の記事や防災教育に関した内容が多かった。津波で壊滅的な被害を受けた大槌町での公開授業と、斎藤孝・明治大教授(57)による記念講演の模様を紹介する。

*新聞記事で思いを共有*大槌学園で公開授業

 東日本大震災の被災地・大槌町での公開授業は7月27日、小中一貫校の町立大槌学園(松橋文明学園長、614人)で行われた。町独自の郷土学習「ふるさと科」の授業で、児童・生徒は新聞記事を入り口に、古里のいまと未来を見つめ、自分たちが町の復興に、どう関わっていくことができるかを考えた。(坂本尚之)

多田俊輔さん(中央)の指導で意見を出し合う6年生の児童たち=7月27日

 公開授業には全国から、小中高校の教諭、新聞関係者ら170人が参加した。
 6年1組(36人)は、2学期に切り抜き記事を集めた「大槌希望新聞」づくりに取り組む。この日はそれに向けて準備の授業を行った。
 担任の多田俊輔さん(32)が新聞を授業に取り入れたのは、記事を通じて古里の復興を願う人たちとの「出会い」を狙ったから。直接会って話を聞くのが理想ながらも、新聞を使えば間接的にでも「たくさんの地元の人に出会うことができ、教える側も出会わせることができる」と、学習教材としての新聞の可能性を感じていると言う。
 記事は町内在住か出身者が登場し、用意した約30の中から子どもたちが選んだ。内容は「津波で家族が行方不明になった女性歌手」「プロ野球の育成ドラフトで指名された大学生投手」「阪神大震災の被災地・神戸市に赴き郷土芸能を舞う人たち」などさまざま。
 「それぞれの記事の共通点を見つけよう」。多田さんの問いかけに、児童は4人一組の班に分かれ、「家族を失った悲しみと向き合っている」「地域に笑顔や希望を届けたいと思っている」などの考えを出し合った。
 全体の話し合いでは、(大槌で)頑張っている人たちは「苦労を重ねた分、復興を届けたいと願っている」「自分にできること、自分にしかできないことをやろうとしている」「震災前の大槌町ではなく、新しい形の大槌町を望んでいることが分かった」など、記事で紹介された人たちの、古里への思いを共有したようだった。
 東日本大震災から7年以上が経過し、大槌町でも記憶の風化が懸念されている。クラスには家族を失ったり、家屋が全半壊した児童も少なくない。
 新聞には生々しい記事もある。多田さんは「希望新聞」づくりに取り組む前に子どもたちに「つらい記事に出合うかもしれない」と話した。多田さん自身も震災発生時に被災地の同県大船渡市にいた。「意図的に知ろうとしている子どももいる」一方で「子どもには震災と向き合わない権利もある」と考え、使用する記事の内容に配慮したと言う。
 授業の最後に子どもたちは、未来の大槌のために努力している大勢の人がいること、町外にいても役に立てることが分かった―などと発表した。将来の自分と重ね合わせる一面ものぞかせた。

*討論 新たな視点持つ契機

グループでまとめた取り組みを発表する9年生の生徒ら=7月27日

 武田啓佑さん(33)が担任の中学3年に当たる9年1組(32人)では、「語り部プロジェクト」の授業を行った。生徒一人一人が、被災した古里と今後どう関わり、どう生きるかを考える力を養うもので、震災後、毎年9年生が続けている。
 授業では、大槌町以外のことを扱った三つの記事「西日本豪雨」「子どもの人気職業」「観光について」を使った。これまでもイベント参加や体験学習などで、自分たちが、復興に向けてどんな役割を果たしていけるかを考えてきたが、記事を通して視野を広め、新たな視点を持つきっかけになることを狙った。
 グループでの話し合いの中から、将来の自分にできることや復興への手掛かりを読み取り、「震災の経験を伝え、西日本を支援したい」「大槌にもっと働く場を」「観光で盛り上げたい」などの意見を出し合った。
 武田さんは「議論が深まらなかった部分もあったが、記事の内容を『自分事』として考えていることが伝わってきた」と、手応えを感じていた。

*斎藤孝さん記念講演*月曜朝に切り抜き発表を

記念講演で新聞の効用を語る斎藤孝さん=7月26日

 大会初日の7月26日、盛岡市市民文化ホールで、教育学者で明治大学文学部教授の斎藤孝さんが「新聞力と復興」と題して記念講演を行った。ベストセラー「声に出して読みたい日本語」や「新聞力」など多くの著作で知られる斎藤さんは「新聞は素晴らしい教材。学校でぜひ記事スクラップ(切り抜き)の発表時間を設けて」と呼びかけた。
 新聞は、西日本豪雨のような災害の記事だと被災の体験を共有できるリアルな教材になると訴えた。その上で、学校の月曜朝の読書の時間を、切り抜き記事の発表に充てることを提案した。前日の日曜夜に家庭で新聞スクラップをすれば「日曜の夜が変わる」と断言。具体的には開いたノートの左側に記事を貼り付け、右側に自分の感じたコメントを書き出す方法を薦めた。自身も長く大学の学生に対し新聞スクラップ発表の授業を続けてきたが、予想以上に学生も夢中になるという。
 斎藤さんは、日本語には夏目漱石の小説や平家物語など日本の宝と言えるような美しい文章がある一方で、実用文としての日本語があるとして、新聞記事は、どの人に対しても伝わる意味が変わらない実用文の代表格とした。
 また日本語は漢字の意味を理解することがまず必要で、語彙(ごい)力を鍛えるには「国語の授業だけでは足りない」として、小学1年生からでも新聞が読めることが望まれると語った。「新聞を読める学力があれば、社会に出ても大丈夫」と太鼓判を押した。
 サッカーのロシアW杯でのクロアチアの集中力を引き合いに、「今の時代は学習にもスピードが不可欠」と朝読書の発表時間を効果的に行う「てきぱきプレゼン」を推奨した。会場では実際に参加者が起立を促され、4~5人一組で「てきぱきプレゼン」に挑戦。各自が思いついた話題を発表し、制限時間内に言いよどむ姿も多く、笑いが弾けた。
 さらに日本では昔、新聞を読むのは白米を食べるのと同じ時代があり、そうした「新聞立国・日本」を支えたのが、自宅に直接届ける宅配制度だったとした。今は「NIEに希望を見いだした」とし、「新聞が日本を支える」と締めくくり、歯切れのいい斎藤節を印象づけた。(森田一志)

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