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大韓航空機撃墜事件*父親亡くした山口さん 尼崎で講義*惨劇から33年 平和考える*当事者心情 知る大切さ学ぶ

 2歳の時に大韓航空機撃墜事件で父親を亡くした若者が、非常勤講師を務める兵庫県尼崎市内の園田学園女子大学の講義で事件を扱った。東西冷戦下の1983年9月1日、当時のソ連のサハリン上空で起きた惨劇から33年余―。学生たちはテーマの重さに戸惑いながらも、事件の特集記事を読み、当事者自らの心情に触れ、平和とは何かを考えた。(山本肇)

大韓機事件の特集記事を使って講義を進める山口真史さん=園田学園女子大

大韓機事件の特集記事を使って講義を進める山口真史さん=園田学園女子大

 講義を行ったのは高校中退者を支援する一般社団法人「new-look」(兵庫県西宮市)代表理事の山口真史(まさし)さん(35)。83年夏、出張先の米国で仕事を終えた父親=当時(32)、会社員=は帰国の際、航空券をバッグごと盗まれたため便を変更し、撃墜された大韓機に乗り合わせた。
 父が亡くなった年齢になった時、事件に関する本を読み、事件、そして父と向き合う。母子家庭に育ち、「人は人、自分は自分」との価値観を持つようになったこと、母親の勧めで父親と同じく高専に進んだこと…。事件があったことで、支援活動に取り組む自分のバックボーン(信念)が築かれたのだと思い至った。
 高専中退後、関西学院大学に進み、4年間の教員生活を経て、社会で不利益を被りがちな高校中退者向けに個別授業を行ったり、生活面、メンタル面で支援する活動を始める。延長線上で、本年度、園田学園女子大で選択科目「ボランティア活動 理論と方法」を週に1回教えている。
 10月14日の講義では、大韓機事件翌日の83年9月2日の北海道新聞夕刊、事件から30年に合わせた2013年8月27日の北海道新聞朝刊の特集を出席した58人に読んでもらった。夕刊には「むごい、運命の急変」との4段見出しで、父親の搭乗理由が分かる記事と顔写真が載っている。資料として、大韓機事件以降、世界各地で起きた民間機撃墜事件の概要を配った。
 山口さんは事件当時の国際関係、事件の背景と原因、残された遺族の思いを考えさせたうえ、「相手の立場になり、相手の気持ちを分かって行動することは可能か」と問いかけた。
 ある1年生は「先生は授業でこの話をしたけれど、親のことを思い出して悲しくならないのだろうか。話を聞くまでは相手の立場に立てると思っていた。でも、そんな簡単なことではない」と感想を漏らした。
 世界平和に関する問いかけには「差別や偏見がなくなり、みんな平等な世界になれば平和になる」との声があったほか、「事件のことは知らなかった。次の世代にもっと伝えるべきだ」と積極的な意見が出た。
 園田学園女子大は教師や保育士、看護師、管理栄養士らを養成しており、地域と大学をつなぐ教育プログラムの一環でボランティア活動を奨励している。山口さんの科目は教員免許取得のために必修で、履修する学生にとってはボランティア体験も評価対象となる。
 山口さんは講義の最後で「事件を知ってしまった責任で、事件を忘れ去ることなく、意味のあるものにしていきたい」と話し、ボランティア活動になぞらえて「あなたなら何ができますか」と問題提起した。
 人間健康学部1年の丸山紗璃(さり)さん(18)=養護専攻=は「明日が来ることが当たり前ではないと改めて知ることができた」とし、「親を亡くした子どもたちの力になれるようなボランティア活動に参加したい」と新たな意気込みを示した。
 山口さんは「ボランティアの背景まで考慮して活動すると、動き方も得るものも変わってくる」と自身の人生を一変させた事件をあえて題材に選んだ。事件の風化を防ぐため、大学以外でも語り続けたい考えだ。

◇大韓航空機撃墜事件◇
 1983年9月1日未明、ニューヨーク発アンカレジ経由ソウル行きの大韓航空007便ジャンボ機が本来の航路を外れ、領空侵犯だとして、サハリン上空で当時のソ連の戦闘機に撃墜された。機体はサハリン南西のモネロン島沖に墜落し、日本人28人と在日韓国人1人の乗客を含む乗員・乗客269人全員が犠牲になった。身元が分かる遺体は見つかっていない。航路逸脱の原因について、国際民間航空機関(ICAO)は93年、自動操縦装置の操作ミスと断定した。

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